研究課題/領域番号 |
24570183
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大岡 宏造 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30201966)
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キーワード | 光合成 / 反応中心 / 緑色イオウ細菌 / 光化学系1 / アンテナドメイン / ヘテロダイマー / ホモダイマー / エネルギー移動 |
研究概要 |
光合成反応中心の電子移動経路には2回対称軸(C2 軸)に沿って2方向存在する。今日まで紅色細菌の反応中心、植物型のPS IIおよびPS I 反応中心の詳細な立体構造が報告されてきた。一方、緑色硫黄細菌やヘリオバクテリアの反応中心はホモダイマー構造をとり、2方向の電子移動経路は等価に機能している。本研究は、反応中心の2方向の電子移動がどのような因子で制御されているかを明らかにしていくことを目的としている。しかしながら当初の計画である人工的ヘテロダイマーであるStrep-PscA/His-PscA型反応中心の収率が著しく低く、現在のところ良好な結果が得られていない。そこで昨年度は、構築した変異導入系の有効性を調べるために、一次電子供与体P840の近傍にあるアミノ酸残基に変異を加え、ホモダイマー型変異体のFTIR解析を行った(現在、投稿論文を準備中である)。本年度はさらに、アンテナ色素系の配置にも着目し、励起エネルギー過程の経路を解析することにした。 具体的にはタイプ1反応中心のコアタンパク質の一次構造を比較し、PsaA、PsaB、PscA、PshAのアンテナドメインの全てに保存されている3つのHis残基に注目し、H79、H164、H487をLeuに置換した部位特異的変異体を作成した。 低温77Kにおいて、405nm励起による時間分解蛍光スペクトル変化を測定した。野生型では長波長側に3つの特徴的なバンド(F820、F830、F840)を検出したが、変異体ではF830あるいはF840の欠損あるいは蛍光強度低下が観測された。このことは、コアタンパク質のアンテナドメインには2つのアンテナ集団が存在していることを示唆している。現在、タイプ1およびタイプ2反応中心のエネルギー移動経路と比較しながらデータ解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでホモダイマー型反応中心を改変して人工的ヘテロダイマーにするために、片側の電子移動経路のみに部位特異的変異を導入するためのプラットフォーム構築に取り組んできた。しかしながらStrep-PscA/His-PscA型反応中心の収率が当初計画時に期待していたよりも低く、昨年度から改良を加えているが、現在に至るまで良好な結果が得られていない。それゆえ本年度は昨年度に引き続いて予定を変更し、変異を導入したホモダイマー型反応中心について時間分解による蛍光スペクトル変化の解析データ収集を行うことにした。2つのアンテナ集団の存在が示唆され、ホモダイマー型反応中心の分子構築に関するモデルを提唱できる段階にきている。 また緑色イオウ細菌反応中心結晶化については、大幅な進展はなかった。一方、ヘリオバクテリア反応中心の結晶化は本年度は大きく進展し、再現性よく回折データを収集することが可能となりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画の進捗状況が思わしくなく、最終年度は以下の項目を重点的に推し進めていく。 1.ヘテロダイマー型反応中心の分取:Strep-PscA/His-PscA型標品の収量が低い主要な原因として、Strep-tactinカラムとの親和性が極端に低いことが挙げられる。Strepタグ、およびタグに続くリンカー部分の配列を検討し直すことにより、親和性の改善に取り組んでいく計画をしている。 2.部位特異的変異による電子移動およびエネルギー移動の解析:現在のところ、ヘテロダイマー型反応中心作製による変異体解析を進めることができていない。しかしながらホモダイマー型反応中心への変異導入に関しては、過去に我々が取り組んだ周辺サブユニットの欠失変異に関するのみである。したがって、我々が本研究で行ったコアタンパクへの変異導入は、電子移動経路やエネルギー移動経路を詳細に解析していく糸口となる初めての事例である。一次電子供与体P840近傍のアミノ酸残基置換体の作製、およびFTIR解析は、光合成初期電荷分離の研究分野において重要なbreak throughとなる可能性があり、現在、投稿準備を進めつつある。一方、新たに取り組んだアンテナドメイン部の変異体解析は、2つの色素集団の存在を強く示唆する結果となった。時間分解による蛍光スペクトルデータと比較するために、定常光照射による蛍光スペクトルデータを早急に収集する予定である。最終年度でもある本年は、ホモダイマー型反応中心の分子構築モデルを提唱し、構造と機能の相関性を進化という時間軸の中で考察することを考えている。 3.反応中心の結晶化および構造解析: ヘリオバクテリア反応中心の結晶については、構造解析に適した回折データが得られるように、分解能向上に向けた条件検討を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
緑色イオウ細菌およびヘリオバクテリア反応中心の結晶化を行うために、結晶化用プレートとスクリーニングキットを購入する予定であった。しかし研究体制を立て直すことにより、他の研究Gに結晶化を依頼することにしたために購入の必要がなくなり、次年度使用額が生じた。 今年度の研究遂行に必要とされる分子生物学用試薬、およびデータ解析に必要なプログラムソフトの購入を予定している。
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