研究課題/領域番号 |
24570185
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
笹原 健二 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (20432495)
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研究分担者 |
森垣 憲一 神戸大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10358179)
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キーワード | アミロイド凝集 / モデル脂質膜 / 細胞毒性 / II型糖尿病 |
研究概要 |
アミロイド形成ペプチドとして知られる膵島アミロイドポリペプチド(37アミノ酸残基、IAPPと略す)は、2型糖尿病患者の膵臓内でアミロイド凝集体を形成し、インスリンを分泌するβ細胞に対して毒性を示すことが知られている。IAPPがどのようにβ細胞近傍に沈着し、毒性を示すのか詳細な機構はよくわかっていない。本研究は、IAPPアミロイド沈着機構を解明するために、ガラス基板上にラフト成分(スフィンゴミエリン、コレステロール)を含む生体モデル脂質二分子膜を形成し、この脂質膜上にIAPPを吸着させ、脂質膜界面で起こるアミロイド凝集反応を観察するモデル実験系を構築した。膜上でのアミロイド沈着及びそれに伴う脂質膜形状(膜流動性や膜構造破壊)を観察できる実験条件を検討し、以下の結果を得た。 (1)膜界面上で形成されるIAPPアミロイド凝集体は、凝集成長とともに脂質成分(ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、コレステロール)と会合体を形成する性質をもち、結果としてアミロイド凝集体は、その形成過程で脂質二分子膜内に入り込みアミロイド沈着物となる。(2)脂質ラフト成分(スフィンゴミエリン、コレステロール)がこの沈着形成を促進させる。(3)IAPPアミロイド沈着は、脂質分子の拡散を抑制することによって動的な膜機能に影響を及ぼす。(4)インスリンは膜界面でのIAPPアミロイド沈着に対して抑制作用を持つ。 これらの研究結果は、学会で発表し、論文としてまとめた (FEBS Journal 2014 in press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
II型糖尿病関連のアミロイド沈着物を形成するIAPPのモデル脂質膜への沈着機構、脂質膜を構成するラフト成分(スフィンゴミエリン、コレステロール)のアミロイド沈着に及ぼす効果、IAPPアミロイド沈着に及ぼすインスリン(IAPPとともにβ細胞から分泌される)の阻害効果を明らかにした。これらの研究成果を平成25年度の蛋白質科学会、生化学会、新学術領域「動的秩序と機能」で発表し、論文としてまとめることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
(1)IAPPアミロイド線維凝集体の成長、形態、及び膜構造破壊の解析 これまでの2年間でIAPPをモデル脂質膜に沈着させる実験系を構築し、沈着機構を明らかにしてきた。脂質膜に沈着したIAPPアミロイド凝集体がどのように成長し、膜構造破壊をもたらすかを明らかにする。予備実験の結果から、膜内でのIAPPアミロイド凝集体(沈着物)は、時間の経過(数日)と共に脂質成分を凝集体内に取り込み、その形態を変化させる(その線維幅を増大させる)。これは、生体内でのアミロイド線維構造多型と関連していると期待される。脂質成分を取り込むことによるアミロイド構造変化と脂質膜破壊作用との相関を明らかにする。 (2)アミロイドβペプチドのモデル脂質膜上での凝集と膜動態観察 脂質膜中のラフト成分含有量・組成を変えることでアミロイド凝集反応に伴うラフト成分のマクロなドメイン形成と局在化、更にこれらのアミロイド凝集体への取り込み、膜構造破壊を観察する実験系を構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)アミロイド形成ペプチドとしてアミロイドβペプチドと膵島アミロイドペプチドを、アミロイド凝集阻害実験でインスリンを購入し使用したが、実験が順調に進みこれらのペプチド使用量が当初予定しより少ない量で済んだため。 (2)モデル脂質膜成分としてグリセロリン脂質DOPC(主要脂質)、コレステロール、スフィンゴミエリンを用いた。DOPCで良好な結果が得られないことを想定し他のグリセロリン脂質(POPCなど)も検討予定だったが、DOPC系の脂質膜で満足いく結果が得られ、脂質及び蛍光ラベル脂質の使用量が当初の予定より少ない量で済んだため。 (1)脂質(フォスファチジルコリン、コレステロール、スフィンゴミエリン、ガングリオシドなど)、アミロイド形成ペプチド(膵島アミロイドポリペプチド、アミロイドβペプチド)、及び蛍光色素の購入。(2)神戸大医学部共同研究施設(共焦点顕微鏡、電子顕微鏡)などの使用料。(3)学会発表旅費、論文作成費用(英語論文の校閲など)。
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