(研究期間全体を通じて実施した研究の成果) 近年、蛋白質の線維状凝集体(アミロイド凝集体)が、細胞膜と会合することで細胞毒性を示すことが報告されてきた。例えば、アルツハイマー病においては、アミロイドβペプチド(Aβ)凝集体が神経細胞に対して、2型糖尿病においては、膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)凝集体がインスリンを分泌するβ細胞に対して、それぞれ毒性を示す。多くの研究は、アミロイド凝集体ー脂質膜相互作用と細胞毒性との関連性を示すが、動的な脂質膜特性(膜動態)が受ける影響についてはほとんど報告がなかった。本研究は、ガラス基板上に脂質二分子膜を形成し、AβとIAPPを膜に吸着させ、膜上でアミロイド凝集を引き起こすモデル実験系を構築し、以下のことを明らかにした。(a) IAPP とAβアミロイド凝集体は、脂質成分と会合体を形成し、その形成過程で脂質二分子膜内に入り込みアミロイド沈着物となる。(b)脂質ラフト成分(スフィンゴミエリン、コレステロール)は、アミロイド沈着形成を促進する。(c)アミロイド沈着は、脂質分子の(側方)拡散を抑制することによって膜動態に影響を及ぼす。(d)インスリンは、膜界面でのIAPPアミロイド沈着を抑制する。(e)Aβアミロイド沈着物は、ラフト成分を取り込むことによって膜組成に影響を及ぼす。これらの研究成果は、4つの論文としてまとめられた。
(最終年度に実施した研究の成果) ラフト成分と糖脂質ガングリオシドを含むモデル脂質膜上にAβのアミロイド凝集体を沈着させ、脂質膜界面で起こるラフト成分のアミロイド凝集体への取り込みを観察する実験系を構築した。脂質ラフト成分の取り込みに膜の相分離が関与していること、取り込みに伴い脂質膜組成が変化する(膜のheterogeneity)ことを明らかにした。得られた結果は、二つの学会で発表され、論文としてまとめられた。
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