G1~S期での細胞周期進行を抑制する主要な遺伝子の一つにp21があるが、この遺伝子はp53によって発現が正に制御されている。研究代表者らはp21遺伝子発現の主要プロモーターの一つであるTATA-less上流プロモーター活性が、転写因子TLPによって正に制御されている事、その働きにはp53の機能が不可欠である事、そしてp53とTLPが結合する事などを見出した。以上の知見を踏まえ、本研究ではTLPを介したp21上流プロモーターの分子機構を明らかにする事を目的とした。 前年度までの研究により、p53とTLPが内在性のp53結合領域にエントリーする事、そのエントリーがエトポシドなどの細胞傷害剤処理により高まる事、TLPの存在がp53のエントリーを促進する事などが明らかになっており、TLPがp53の機能発現に必要な転写補助因子である可能性が強く示唆されていた。さらに、TATAボックスをもつ下流プロモーターにはそのような現象が見られない事から、TLPの作用できる条件の一つに、プロモーターがTATA-lessである事があると考えられた。 本年度はp53とTLPとの物理的相互作用について深く検討を加えた。解析の結果、TLPがp53と結合する強さは、既にp53と結合する事がわかっているTBPのそれと比べ、約3分の1である事が明らかにされた。p53の変異解析の結果、TLPと結合するp53の領域にはN端の転写活性化領域含まれる事、その中に特定の複数のアミノ酸残基が重要である事が示された。さらにTLP側の変異解析を行い、p53結合には少なくとも分子中央の領域が必要である事も明らかとなった。変異p53や変異TLPを用いた解析により、この両因子の特異的結合が、プロモーターへのエントリー、上流プロモーターの活性化、そしてエトポシド依存的p21遺伝子の活性による細胞増殖抑制に関わる事が明らかにされた。
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