研究課題/領域番号 |
24570195
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中世古 幸信 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (30231468)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 染色体構築・機能・分配 |
研究概要 |
本研究課題ではタンパク質の脱リン酸化反応が細胞内でどのような機構によって生命現象、とりわけ細胞増殖を制御しているのかという点に焦点を絞った解析を行なっている。プロテインフォスファターゼは、タンパク質の脱リン酸を担う酵素であるが、その逆反応を担うプロテインキナーゼに比較して、作用機序が不明な部分が多い。本研究では酵母ランダム突然変異株ライブラリーを用いた組織的スクリーニングにより、プロテインフォスファターゼに機能的に関連する因子のスクリーニングを網羅的に行なう。一連の解析により、触媒サブユニットを制御する因子、基質、あるいはプロテインキナーゼや他のプロテインフォスファターゼとの機能的相互作用等が見出される事が期待される。それらの結果を総合的に解析し、プロテインフォスファターゼの新規機能、ならびにそれら遺伝子間の機能的ネットワークの理解を目的とする。本年度は申請者らが構築した分裂酵母のランダム変異株ライブラリー中の変異株に対して、既知のプロテインフォスファターゼをコードする遺伝子を形質転換により導入し、機能的に相互作用する変異株ならびに遺伝子の同定を行なった。各過程は以下に述べる3段階に分けられる。(1)分裂酵母のランダム変異株ライブラリー約1,000 株に対して、一株ずつ既知のフォスファターゼ遺伝子を形質転換により導入する。(2)得られた形質転換株のすべてについて制限温度、準制限温度における生育の促進効果、あるいは許容温度における生育の阻害効果の有無を調べる。(3)同定された遺伝子について、既知の表現型データ、および塩基配列データを詳細に分析し、機能的相互作用を示す遺伝子群についてのデータを集積する。出発点となる遺伝子は1 型プロテインフォスファターゼとしてDis2 を、2 型プロテインフォスファターゼとして、Ppa2(2A型), Ptc1(2C型)を用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分裂酵母のランダム変異株ライブラリーを用いて既知のフォスファターゼ遺伝子と相互作用する因子の解析についてはまずPtc1(2C型)を用いた解析では、スクリーニングの規模を拡大し、形質転換による生育の促進を示す変異遺伝子として以前と同様に多くの候補遺伝子が同定された。それらを分類すると、ゲラニルゲラニル転移酵素等のタンパク質のプレニル化反応に関与する酵素群とSpc1等のMAPキナーゼを中心とするストレス応答関連因子群が同定された。予備的スクリーニングに比べて新たな因子も同定されたが、いずれも上記2種の範疇に属するものであるため、スクリーニングの技術的再現性は確認できたが新規因子の同定には至っていない。また、上記2種のグループに属しない因子として、Spr18が同定されている。染色体構築制御因子であるSpr18についてはSpr18複合体の他の因子は同定されなかったことから、Ptc1はSpr18複合体全体ではなくSpr18分子特異的に作用するかも知れない。1型プロテインフォスファターゼとしてDis2 を、2型プロテインフォスファターゼとして、Ppa2(2A型)を用いたスクリーニングでは、形質転換により生育の促進を示す変異株については極めて弱く反応するものはあるものの、確実な候補株はほとんど得られなかった。未だ1000株全体についてのスクリーニングではなく部分的な結果であるが、Ptc1を用いた結果とは対照的であり、スクリーニングを進めるにあたり、若干の実験条件の改変が必要と考えられる。Ppa2についてはPtc1と同様にSpr18変異株の生育促進が確認できた事から、Spr18が脱リン酸化により機能制御を受ける事はほぼ確実と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
変異株ライブラリーを用いたスクリーニングでは、Dis2(1型) とPpa2(2A型)を用いた結果では現時点で候補遺伝子がほとんど同定されていない。この結果はPtc1(2C型)とは全く異なり、予想外であるため、さらにスクリーニングを進めるとともに、新たな実験条件を模索する。その原因として、これら2つの遺伝子はプロテインフォスファターゼの触媒サブユニットをコードし、細胞内では制御サブユニットと結合、あるいは機能的に協調する場合にのみ機能する可能性が考えられる。そのため、これまで知られている各々のサブユニット(Sds22等)を共発現するベクターを構築し、スクリーニングを試みる。また形質転換に用いるベクター系の改変、とりわけ細胞内のコピー数を変化させる事で異なる結果が得られる可能性も考えられる。NMT1やADH1プロモーター等の過度な過剰発現を促すベクター系は擬陽性の候補遺伝子を同定する可能性が高いと考えられるので今回は用いない。一方でPtc1を用いたスクリーニングでは、Dis2, PPa2の場合とは異なり、複数の候補遺伝子を同定したが、予備的な解析で得られたものとほぼ同じ結果が再現できたので、これらの候補遺伝子の解析を進める。とりわけSpr18はPtc1の新規機能の解明に繋がると期待される。候補遺伝子については、まず大腸菌あるいは酵母細胞におけるpull down実験、あるいは酵母two-hybrid法等で、物理的相互作用の有無を調べる。フォスファターゼ活性に関する調節の有無を生化学的に解析するには現段階では極めて困難であるため、なるべく多くの候補遺伝子を集め、同定された因子群からの情報を基にアミノ酸配列や機能群比較の情報等から基質因子、制御因子となる候補を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当無し
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