昨年度の結果ではCG9281遺伝子へのトランスポゾン挿入系統MB01100は全体の1/4の個体は無周期を示すが、残りには全く影響がなかった。同一系統で周期性にばらつきが出る原因として、CG9281は時計関連組織の発生に関与し、間接的に概日周期の異常を引き起こす可能性が考えられた。そこで、MB01100を抗PDF抗体で染色したが異常は見つからなかった。別の可能性として、トランスポゾン挿入の影響が、例えば選択的スプライシングなどで部分的に緩和されることが考えられた。表現型にばらつきがあって分子レベルでの解析が困難なため、トランスポゾンの再転移により、より安定な表現型を示すと思われる欠失系統の作製をめざした。その結果、2系統の再転移系統が得られた。ゲノムシークエンスの結果から、一方は挿入点近傍の3アミノ酸に置換が起きており、他方は挿入点以降でフレームシフトが起きて正常の半分の大きさのタンパク質が発現する変異とわかった。しかし、両系統とも周期性は正常であった。後者ではCG9281タンパク質の前半部分だけが発現しており、2つのATP結合領域の片方は残っている。一方で、MB01100では、CG9281の前半部とトランスポゾンのキメラタンパク質が発現していることが予想される。よって、可能性の1つとしてCG9281は前半部にある機能領域(ATP結合領域)が正常な構造をとれば機能し得る新規なABCタンパク質と示唆された。しかし、このようなABCタンパク質の報告例はこれまでになく、また、CG9281との相互作用因子は研究1年目に同定したCK2α以外には見つからなかったため、CG9281の概日時計への関与メカニズムの解明までには至らなかった。
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