研究課題/領域番号 |
24570202
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
大谷 清 関西学院大学, 理工学部, 教授 (30201974)
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キーワード | 転写 / がん / E2F / RB / ARF / アポトーシス / Bim |
研究概要 |
転写因子E2Fによるがん抑制遺伝子の発現制御機構を解析し、以下のことを明らかにした。 1. サイクリン依存性キナーゼの活性がpRBの制御を外れたE2F活性に及ぼす影響を検討し、サイクリンD1/CDK4の過剰発現が、E2F1によるがん抑制遺伝子ARFのプロモーター活性化を抑制することを見出した。従って、Dタイプサイクリン依存性キナーゼが制御を外れたE2F活性を抑制する可能性が示唆された。 2. 制御を外れたE2Fによって特異的に活性化されることの分かった9個の新規標的遺伝子の中から、アポトーシス関連遺伝子の1つであるBim遺伝子に関して解析した。BimプロモーターのE2F反応性エレメントを検索したところ、典型的なE2F結合配列がもつTストレッチをもたないGC繰り返し配列3カ所が同定された。Bimプロモーターには、増殖刺激によって誘導された生理的なE2F1の結合は認められず、過剰発現およびpRBの強制的な不活性化によって誘導された制御を外れたE2F1の結合が認められた。shRNAによるBim遺伝子発現のノックダウンにより、E2F1の過剰発現によるアポトーシスの誘導が抑制された。従って、Bim遺伝子は制御を外れたE2Fによって特異的に発現誘導され、アポト-シス誘導に関わっていることが示唆された。 3. 増殖刺激によって活性化されたPI3キナーゼ経路が、制御を外れたE2Fによるアポトーシス関連遺伝子の発現を抑制するという報告がされているため、E2F1によるBim遺伝子発現に及ぼすPI3キナーゼ経路の影響を検討した。増殖刺激によってPI3キナーゼ経路を活性化しても、PI3キナーゼ経路のエフェクターであるPKB/Aktの活性化型を過剰発現しても、E2F1によるBim遺伝子の活性化は抑制されなかった。従って、PI3キナーゼ経路はE2F1によるBim遺伝子の活性化を抑制しないと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. サイクリン依存性キナーゼ活性が制御を外れたE2F活性を抑制するという、新たな知見が得られたため。 2. 新たに同定された制御を外れたE2Fの新規標的遺伝子のうち、Bim遺伝子がE2Fによるアポトーシス誘導に関わることが同定され、新規標的遺伝子の生物学的な意義が見出されたため。 3. PI3キナーゼ経路は、制御を外れたE2Fによるアポトーシス関連遺伝子の特異的な発現誘導を抑制しないという、新たな知見が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
1. 生理的なE2Fと制御を外れたE2Fの修飾の違いの解析 サイクリン依存性キナーゼの活性化により、E2F1によるARFプロモーターの活性化が抑制されたことから、E2F1のサイクリン依存性キナーゼによるリン酸化の有無が生理的なE2Fと制御を外れたE2Fの修飾の違いの1つになっている可能性が示唆される。そこで、この違いに関わっているアミノ酸部位を同定する。そのために、既に作製してる70カ所のリン酸化を受けうるアミノ酸の変異体をスクリーニングすることにより、サイクリン依存性キナーゼの活性化によってARFプロモーターの活性化が抑制されない変異体を同定する。また、その部位のリン酸化を模倣した変異体を作製し、サイクリン依存性キナーゼの活性化無しにARFプロモーターの活性化が減弱しているか否か検討する。アミノ酸部位が確定できれば、その部位のリン酸化特異抗体を作製し、生理的なE2F1と制御を外れたE2F1とで、その部位のリン酸化の有無を比較検討する。 2. E2F1の新規相互作用因子DDX5の機能解析 過剰発現したE2F1の免疫沈降と質量解析を用いて、E2F1の新規相互作用因子としてDDX5を同定した。DDX5の過剰発現がE2F1によるがん抑制遺伝子ARFの活性化を増強することを見出しているが、逆にDDX5をノックダウンすることによってE2F1によるがん抑制遺伝子ARFの活性化が抑制されるか否か検討する。
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