研究課題
小胞輸送制御因子であるVarpについて、色素細胞におけるデンドライト伸長機構とメラニン合成酵素輸送機構に焦点を当て、その機能を解明することで、色素細胞の活性化機構の理解を目指している。本年度は、Varpにより活性化されるRab21について、デンドライト伸長における機能解析をより進め、メラニン合成酵素輸送機構との類似性と相違性について検討を行った。1. 色素細胞のフォルスコリン刺激によるデンドライト伸長機構をまず解析した。(1) このデンドライト伸長活性にはフォルスコリンによるPKA活性化が関与すること、(2) そしてフォルスコリン刺激によりRab21が活性化されることが、Rab21エフェクターを用いたプルダウン実験により明らかになった。2. つぎに、Varpによって活性化されるRab21と、Varpに結合するRab32/Rab38について、それぞれの機能を解析した。(1) Rab21の機能を欠損した色素細胞では、フォルスコリン刺激によるデンドライト伸長が抑制されるのに対し、Rab32/Rab38の機能を欠損した色素細胞では、デンドライト伸長に異常は全く認められなかった。(2) 一方で、VarpとRab32/Rab38による複合体はメラニン合成酵素輸送において重要な役割を果たすことがすでに明らかになっている。つまり、Rab32/Rab38の機能を欠損した色素細胞ではTyrp1などのメラニン合成酵素が消失するわけだが、Rab21の機能を欠損した色素細胞ではメラニン合成酵素の輸送に影響は認められなかった。(3) さらに、Rab21とRab32/Rab38の細胞内局在を検討したところ、それぞれが異なる小胞上に存在することが明らかになった。これらの結果、VarpによるRab21の活性化とVarp-Rab32/38による複合体形成が、それぞれ色素細胞のデンドライト伸長とメラニン合成酵素輸送という異なるステップを制御することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
Rab21の活性化能を欠失したVarp変異体を用いた解析から、VarpによるRab21の活性化が色素細胞のデンドライト伸長に必須であることを前年度に明らかにしていた。本年度は、デンドライト伸長においてPKA経路が関わり、そしてRab21が活性化されるなど、デンドライト伸長に関わる分子機構の一端を明らかにした。すでに、VarpとRab32/Rab38からなる複合体が、メラニン合成酵素の輸送過程に必須であることが明らかになっているが、興味深いことに、この複合体が色素細胞のデンドライト伸長には関与しないことを明らかにした。一方で、VarpによるRab21の活性化がデンドライト伸長を制御するものの、メラニン合成酵素の輸送過程には関与しないことを明らかにした。そして、Rab21とRab32/Rab38がそれぞれ異なる細胞内局在を示すことも明らかにした。このように、細胞内局在の異なるRab21とRab32/Rab38が機能的にも使い分けられていることが明らかになり、当初の予定通りの成果を出すことができていると考えられる。
Rab21とRab32/Rab38といった異なるRabアイソフォームが、それぞれ色素細胞のデンドライト伸長とメラニン合成酵素輸送という異なるステップを制御する知見を確固たるものにするため、より様々な角度から検証する。Rab21を活性化できないVarp変異体はデンドライト伸長を促進しないことは分かっているが、この変異体がメラニン合成酵素輸送を制御できるのかどうかを解析する。一方で、Rab32/Rab38と結合できないVarp変異体はメラニン合成酵素輸送を促進しないことは分かっているが、この変異体がデンドライト伸長を制御できるのかどうかを解析する。これらの解析から得られる知見は、VarpによるRab21とRab32/Rab38の使い分けの分子機構解明につながるものと期待される。さらにVarpには、VAMP7と呼ばれるSNARE分子との結合ドメインが新しく見出された。VAMP7は小胞上に存在するv-SNAREとして知られており、膜小胞の融合に深く関わっている。色素細胞におけるメラニン合成酵素輸送過程やデンドライト伸長過程において、VAMP7とVarpの結合について生理的意味を明らかにすることは、今後の研究の進展につながるものと期待される。
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成26年度請求額とあわせ、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。計画の変更は伴わない。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
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