研究課題/領域番号 |
24570207
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中野 賢太郎 筑波大学, 生命環境系, 講師 (50302815)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 酵母 / 細胞質分裂 / 形態形成 / アクチン / 細胞骨格 / 細胞内輸送 / シグナル伝達 / 細胞内極性 |
研究概要 |
細胞質分裂は母細胞から娘細胞に確実にゲノムと細胞構造を伝承するプロセスである。それを実行する分子マシナリー「収縮環」の形成は分裂シグナルによって時空間的に制御される。その分裂シグナルの実体と発現機序については、発達した紡錘体をもつ動物細胞では理解が進んでいる。一方、閉鎖型の核分裂をする真菌や原生生物では、それらが真核生物の大部分を占めるにも拘らず、不明な点が多い。本研究では、分裂様式の異なる2種の分裂酵母を活用し、真核生物界における普遍的かつ根源的な分裂シグナルの実体の解明を目指している。 本年度は、細胞質分裂の分子機構の解析が最も進んでいる Schizosaccharomyces pombe のMid1p を主体とした分裂シグナルの機能の普遍性について調べた。 Mid1p は間期細胞では核質に収められており、分裂期に近づくと細胞質に排出されて細胞表層においてノードと呼ばれる分子複合体を組織化する。分裂期初期にノードは、アクチン重合因子とミオシンII、及びそれらの機能を統合する蛋白質が局在する。その結果、ノード同士がアクチン繊維のネットワークで結ばれ、最終的に収縮環構造が分裂期中期の細胞の中央領域に形成される。一方、異種の分裂酵母である S. japonicus では、細胞中央領域に収縮環が形成されるのは、分裂期後期に核分裂が生じた後である。この分裂酵母の Mid1p 様遺伝子をクローニングし、その機能を調べた。S. pombe の mid1 遺伝子破壊株に Sj mid1 を発現させたが、細胞質分裂の異常を補うことができなかった。さらに、GFP 融合型 Sj Mid1p は、S. pombe の Mid1p のような細胞内挙動を示すことは観察されなかった。これより、分裂酵母属の中でも Mid1p による分裂シグナルの重要性が異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目標としていた Mid1 の機能の理解を、異種の分裂酵母 S. japonicus を利用することで深めることには成功した。この成果は、S. japonicus の mid1 遺伝子を相同組換えにより薬剤耐性マーカー遺伝子と置換することで機能破壊し、その表現型を調べる実験を行い、論文発表する予定である。しかし、平行して実験を進めていた S. octsporus の mid1 遺伝子はクローニングが困難であり、研究が進んでいない。クローニングができない理由は S. octsporus のゲノム DNA の性質によるものと思われた。そのため、S. octsporusを用いた解析は一次棚上げして、S. japonicus の解析に力点を置くことにした。 一方、S. pombe の染色体上の mid1 遺伝子のプロモーターを発現調節可能なものに置換した細胞株で、Mid1p の発現量を減らした際に特異的に細胞質分裂の異常な変異株をスクリーニングする実験については、スクリーニングの条件検討が難しく、進行が遅れてしまった。また、Mid1p と平行して収縮環形成に必要な Septation Initiation Network (SIN)とよばれるキナーゼカスケードの解析については、国外の研究者らの研究が進展してしまったことから、本解析の変更が余儀なくされた。国際学会などで最新の情報を収集し、該当する研究計画を練り直し、解析の再開を検討したい。 S. pombe と分裂様式の異なる別種の分裂酵母 S. japonicus において、GFP 標識したアクチンやミオシン、セプチンなどを発現する細胞株を構築する実験については、形質転換効率が思わしくないため、実験が迅速に行われていない。この点については、実験の回数を積み重ね、さらに形質転換の実験条件を深く吟味することで、今後の改善が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の一部の進行が遅れているが、全体的な方針の変更は不要と判断している。進行が遅れたものについては原因を分析し、とるべきアプローチについて改善あるいは取捨選択する。特に、遺伝学的なスクリーニングは、時間を要するため、十分に吟味する。また、S. japonicus の細胞質分裂に関係する因子を同定する目的で、免疫沈降法やアフィニティーカラム、及び Two-Hybrid スクリーニングなどを進めていきたい。 異種の分裂酵母の研究成果が蓄積したところで、それらのデータを比較し、新奇分裂シグナルの実体を推定に移る。さらに生物界におけるその機能の普遍性を検証する目的で、遺伝子の機能阻害が可能な単細胞真核生物において機能ホモログを探索・単離する。細胞性粘菌 Dictyostelium discoideum と繊毛虫 Tetrahymena thermophila を用いた研究に着手する。 研究の後半では、細胞質分裂の研究を二形成の制御機構の解明に向けて発展させる。真菌症の鍵を握る二形成の誘導が自在なモデル生物 S. japonicus を用いて、酵母体から菌糸体、及びその逆の細胞形状の変換における、菌体の隔壁形成と細胞分離のパターンの切替えの分子機構について解明する。その目的で、GFP マーカーを用いたライブ観察により、酵母体から菌糸体、菌糸体から酵母体への変換における細胞質分裂の様子を明らかにする。特に、核分裂と収縮環形成のタイミング、菌糸内での収縮環の位置決め、収縮環の動態などに注目し、各プロセスの違いを分子レベルで明らかにする。さらに細胞質分裂の変異株の二形成の性状について調べ、収縮環の形成や動態を制御する因子を、酵母体に特異的、あるいは酵母体と菌糸体の両方に必要なものに分類する。その結果、二形成の切替えに伴う細胞質分裂の制御機構について、分子遺伝学的に明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
様々なGFP発現細胞の作製を進めるするため、導入遺伝子の作製やS. japonicus の形質転換などの実験操作については、実験補助者を雇用して効率的に進める。 さらに、菌糸形成を記録するためには、単一細胞を観察するよりも広視野での顕微鏡像の撮影が必要である。そこで、従来のCCDカメラと比較し、撮影可能な視野が4倍近くに広げることができる最新のCMOSカメラを購入し、データ収集の効率化を図る。
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