研究課題
HB-EGFはEGFファミリーに属する増殖因子で膜結合型蛋白として合成され、細胞表面において種々の刺激によって酵素的切断(エクトドメイン・シェディング)を受け、その細胞外領域が分泌される。HB-EGFのシェディングを担う主たる酵素としてADAM17が知られている。しかしADAM17によるHB-EGF切断の制御機構は未だ不明である。そこで本研究ではこの制御の分子機構を明らかにすることを目的とする。計画当初、用いる細胞系として一般的な種々の株化細胞を予定していたが、生体内においてADAM17やHB-EGFが実際に機能していることがわかっている細胞系を用いる方が真の制御機構にアプローチできると考え、研究初年度(24年度)に、用いる細胞系をマウス胎仔心臓弁初代培養細胞に変更した。これはマウス心臓弁の発生過程においてADAM17による切断がHB-EGFの生理機能発揮にとって必須であることが各種ノックアウトマウスの解析からわかっているからである。25年度は、昨年度に確立したこの心臓弁初代培養系でのレンチウイルスベクター系遺伝子導入法を用いて、以下のことを明らかにした。(1)HB-EGFによる細胞増殖抑制には受容体としてEGFR/ErbB4ヘテロ2量体が機能し、その下流でJNK及びp38MAPKカスケードが関与している。(2)この時のErbB4の作用様式は、ADAM17とそれに続くPS1による切断が関与するErbB4細胞内領域(E4ICD)の核内移行である事が強く示唆される。(3)HB-EGF欠失時の細胞増殖昂進には受容体としてEGFRホモ2量体が機能し、その下流でRas-MAPKカスケードが関与している。今後は、特に細胞増殖抑制においてHB-EGFの切断とErbB4の切断の両方に関与するADAM17の制御機構を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
初年度の、実験に用いる細胞系の一般的な株細胞系からマウス胎仔心臓弁初代培養細胞系に変更に伴い、研究手法の重点が生化学的手法から分子生物学的手法に移り、そのための遺伝子導入法の確立から本研究をスタートしたために、一時、研究進捗の遅延が生じたが、その後本年度はほぼ予定通りに研究は進捗している。
25年度において、HB-EGFによる間質細胞の細胞増殖抑制においてHB-EGFの受容体としてErbB4とその細胞内領域の関与が強く示唆されたが、このことは本研究の主題であるADAM17が、HB-EGFの切断のみならず、その受容体のErbB4のシグナル伝達様式としての細胞内領域切断にも関与している事を強く示唆しており、本事象におけるADAM17の重要性をさらに支持するものである。今後はこの系におけるADAM17制御の分子機構解析によって研究目的を完遂させる。
初年度に行った実験系変更に伴って、研究の前半部分の方法論が主に生化学的手法から細胞生物学的・分子生物学的手法に移行し、その結果として当初見込み執行額よりも少額となった。初年度に行った実験系変更に伴って、結果として25年度当初予定していた見込額よりも執行額が少額になったものの、その後の基本的な研究計画に変更はなく、前年度の研究費を含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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Biochem. Biophys. Res. Commun
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