研究課題
基盤研究(C)
私達はこれまでにグローバルなヒストン修飾によるクロマチン構築の変化が、ゴルジ体構造を介して、細胞極性形成を調節している事を見出してきた。そこで当該研究において、クロマチン構築がどのように細胞極性の形成を調節しているのか明らかにする事を目的として研究に取り組んだ。細胞極性形成能は直接、細胞の運動能に影響を与えるため、本年度は癌細胞に着目した。細胞の癌化に伴い、一般的に細胞の遊走能、浸潤能は亢進している。さらに近年ヒストン修飾状態が大幅に変化していることが明らかにされてきている。しかしながら、ヒストン修飾の変化が細胞機能にもたらす意義はよくわかっていない。私達は、in vitroにおいてH3K9のメチル化酵素、SUV39H1を強制発現したところ、細胞の遊走能、浸潤能が顕著に亢進し、ノックダウンすることによりそれらは抑制された。また、大腸癌臨床検体を用いてヒストン修飾状態を解析したところ、大腸癌組織の浸潤部においてヒストンH3の9番目のリジンのトリメチル化 (H3K9me3) が有意に亢進していること、大腸癌患者におけるリンパ管侵襲と臨床検体のH3K9me3の量に正の相関性が認められることを見出した。さらに、SUV39H1を過剰発現した大腸癌細胞をマウスの皮下に移植したところ腫瘍形成が促進され、生存率が顕著に低下することを明らかにした (Yokoyama et al., 2013, Cancer Sci. in press)。これらの結果は異常なH3K9me3が細胞運動能の活性化を介して大腸癌の進行に重要な役割を果たしていることを示しており、今後の臨床応用への大きなヒントとなるものである。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたクロマチンシグナリングの生理的意義、病理的意義の解明において、癌細胞における異常なクロマチンシグナリングが細胞運動能あるいは細胞浸潤能を調節することにより、癌の進展に機能していることを明らかにすることができた。
次年度は、クロマチン構築変化が情報として細胞質に伝達され、細胞極性形成および細胞運動能を制御するクロマチンシグナリングの分子実態の解明に取り組む。[1] クロマチンシグナリングの解明SUNは核膜内膜に、KASHタンパク質は核膜外膜に局在化し、核膜間腔において複合体を形成する。KASHタンパク質は細胞骨格とも結合する。私達は、(i) SUNとトリメチル化されたヒストンH3K9 が複合体として共沈する事、(ii) ヒストンH3K9のトリメチル化を阻害するとSUNおよびゴルジ体の局在が変化する事、(iii) SUNのノックダウン或いは過剰発現により、ゴルジ体構造が変化する事を見出しており、ヒストンの修飾状態を細胞質へ伝える因子の候補としてSUN/KASH複合体に着目する。そこでSUN/KASHとヒストンとの相互作用およびその複合体形成に関与するゲノム配列を解析する。[2] SUN/KASH複合体によるゴルジ体構造/細胞極性形成機構の解析SUN/KASH複合体とゴルジ体構造を結びつける因子を同定し、その因子によるゴルジ体構造の制御機構を解析する。ヒトKASHタンパク質には4つの遺伝子が報告されている。そこで、(1) 個々の遺伝子をノックダウンしゴルジ体構造への影響を観察し、(2) 影響があったKASHタンパク質に対する抗体で免疫沈降したときに含まれる因子を解析することにより、SUN/KASH複合体とゴルジ体を繋ぐ因子を解析する
B-A 60,367円 物品費研究を進めて行く上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額が異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め当初予定通りの研究を進めていく。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 2件)
Cancer Science
巻: in press ページ: in press
10.1111/cas.12166.
FEBS Open Bio.
巻: 4 ページ: 721-726