研究課題
私達はグローバルなヒストン修飾によるクロマチン構造変化が細胞極性を制御することを見出してきた。細胞極性制御は、細胞運動能、細胞浸潤能調節において重要な機能を担っており、がん細胞の転移能にも関与する。そこで、ヒストン修飾によるクロマチン構造変化が、細胞極性を制御する分子メカニズムを明らかにすることを目的として本研究を進めてきた。昨年度の研究結果を基礎として、クロマチン構築変化がどのような情報として細胞質に伝達されるのか、その分子実態を解明するため、核膜貫通蛋白質複合体LINC complexに着目して解析を進めた。その結果、LINC complexの構成因子であるSUN2がゲノム上のある領域に集積することを見出した。一方、SUN1に関してはそのようなことは見出されないが、一方でrRNAの転写に関与することを見出した。また、がん組織では、ヒストン修飾を含むエピジェネティックな制御が、大きく乱れていることが知られているが、それに伴い、SUN1/SUN2およびその結合因子であるlamin, nesprin等の蛋白質発現が顕著に減少すること、nesprinおよびlaminの発現現象は臨床病理学的な因子と有意に相関することを見出した。さらに、in vitroにおいて、これらの因子の発現減少は細胞極性だけでなく、細胞核構造および細胞の接着能に影響を与えることも見出した。これらの結果は、核膜に存在するLINC complexは核と細胞質を物理的に繋ぐだけでなく、核内からの情報を細胞質へ、細胞質あるいは細胞外からの情報を核へ伝えていることを示しており、癌病態においてはその機能が破綻していることが示唆される。
2: おおむね順調に進展している
ほぼ予定どおりに進んでおり、SUN1/SUN2に結合するゲノム配列を、ChIP seqence解析により見出した。また、SUN/KASH蛋白質の強制発現およびノックダウンが細胞極性に与える影響および、クロマチン構築に与える影響も見出している。 また、これらの研究に付随して、SUN1/SUN2蛋白質の発現が、乳がん組織において顕著に減弱していることも見出しており、次年度これらを発展させることにより、本来の目的である、クロマチン構造変化による細胞極性形成機構の解明に結び付け、さらにin vivoでの機能へと発展させることが可能であると考えられるため。
今年度見出したヒストン修飾によって制御される核膜貫通蛋白質、SUN1/SUN2を含むLINC complexが、細胞質においてどのようにゴルジ体構築を制御しているのか明らかにする。そのための、候補分子郡はすでに見出している。また、今年度見出したSUN1による転写調節の可能性を、分子レベルで確認するとともに、SUN2のrRNA合成への関与を明らかにしていく。これらのことから、核内の情報による、細胞質でのゴルジ体構築制御機能の概要を明らかし、さらに細胞極性制御機構を明らかにする。
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額がわずかに異なった。研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め当初の予定どおり試薬購入にあて、研究を進めていく。
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Cancer Science
巻: 104 ページ: 889-895
doi: 10.1111/cas.12166