研究課題
細胞極性形成の制御は、細胞の分化、細胞運動、がん細胞の転移など様々な機能の鍵を握る。癌組織では細胞の癌化に伴い、様々なエピジェネティック異常の蓄積、核形態や細胞極性の大きな変化が観察される。私達はグローバルなヒストン修飾によるクロマチン構築の変化が、どのように細胞極性の形成に寄与しているのか明らかにするため、核膜に存在するLINC complex (Linker of nucleoskeleton and cytoskeleton) 複合体に着目した。LINC complexは核膜タンパク質SUN1/SUN2、nesprin、核膜直下に発現するlamin等よりなり、クロマチンと細胞骨格を物理的に繋ぎ、核形態の維持、細胞運動に機能していることが知られていた。本研究において、LINC complexがある微小管モータータンパク質と結合し、ヒストン修飾状態に応答して、ゴルジ体構築を制御することを明らかにした。またヒト乳癌臨床検体において、LINC complex構成因子SUN1/2, nesprin2, laminA/Cの発現が顕著に低下していることを見出した。またヒストンH3の9番目リジンのメチル化 (H3K9me3) はヒト大腸癌組織の浸潤部において亢進し、in vitroにおいては細胞運動に必須であることを明らかにした。これらの結果は、ヒストン修飾状態というクロマチンからの情報 (クロマチンシグナリング) がLINC complexを介してゴルジ体構築を制御し、細胞極性の形成に機能しているメカニズムを示している。この事は、クロマチン構築が細胞内外の情報を統合して細胞極性形成に機能する可能性を示しており、細胞レベルでの高次生命現象の統合的な理解に大きな意義を持つ。さらに、このシステムは、癌細胞の運動能制御にも寄与するため、今後、LINC complexにより制御される核構造と癌浸潤転移との関連を明らかにし、新たな治療方法、予後診断の確立へと展開していきたい。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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