出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの非対称分裂では微小管とアクチンの細胞骨格系が協調して細胞核を娘細胞へ分配する。本研究ではこの制御機構が出芽酵母に共通するかを調べるために、S. cerevisiaeとは進化的に離れたメタノール資化酵母Hansenula polymorphaの 細胞分裂機構の解析を行った。 2014年度は野生型ホモタリック株から解析が容易なヘテロタリック株を取得するために接合型変換機構の解析を行った。ドラフトゲノム配列を決定したところ、a型遺伝子とalpha型遺伝子は同一染色体上の異なる遺伝子座に存在することが分かった。接合条件下では、これら2つの遺伝子座間の逆位を誘導という新規の機構により接合型が変換されることを明らかにした。このことはS. cerevisiae及びその近縁種とは異なる有性生殖機構を持つ酵母種群の存在を示唆している。更に、逆位不能株を作製することによりヘテロタリック株を取得した。 また、H. polymorphaにおけるKar9、ダイニン、Bub2相同遺伝子を欠失させたところS. cerevisiaeの変異株と同じ表現型を示したことから、既知の細胞核分配機構が働いていることが示唆された。しかし、DNAの可視化により細胞周期における細胞核配置を調べたところ、分裂中期核がバッドネック近傍に位置する他の酵母種とは異なり、分裂後期開始まで母細胞の真ん中に位置することから、異なるタイミングで制御を受けている可能性が考えられた。微小管をGFP-チューブリンで可視化したところ、細胞周期初期での細胞質微小管数が少なかった。そこで、SPBの細胞質側に微小管をつなぎ止めるSpc72蛋白質を構成的に発現させたところ、細胞核はバッドネック近傍に位置するようになった。また、SPB構造の電子顕微鏡観察を行ったところ、分裂期には顕著なSPBの細胞質側の外層がG1期には殆ど見られなかった。これらのことから、H. polymorphaではSPBの構造と機能が細胞周期を通じて変化することが分かった。
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