研究課題
本研究は、細胞の核―細胞質間蛋白質輸送システムによる胚発生の制御機構を明らかにすることをめざす。マウス胚性幹細胞(ES細胞)の分化に深く関わる輸送受容体importinαに焦点を絞り、ノックアウトマウスの解析を通して胚発生過程での機能を解明する。輸送受容体importinα1(KPNA2)は、ES細胞を用いた研究から、動物の初期胚発生に重要な役割を果たすことが示唆されているが、ノックアウトマウスを用いた解析はいまだ行われていない。この課題に取り組み、核―細胞質間蛋白質輸送システムが関わる胚発生機構の解明につなげる。作年度は、従来の方法を用いてノックアウトマウスの作成のための遺伝子コンストラクトの作成を試みた。しかしながら、 当初の予定通りに進まず、 importinα1は従来の方法でノックアウトマウスを作製するのが困難であると判断した。そこで、最近新たに確立され有効であるとされる、CRISPRを用いた遺伝子改変ツールを使用し、ノックアウトマウスの作成を試みた。全長のノックアウトは困難であったが、なるべく多くのエクソンを欠失するようにいくつかのデザインを構築して実施したところ、 KPNA2遺伝子の片アリールを欠いたヘテロマウスの作成に成功した。現在はこのヘテロマウスを用い、ホモ欠損マウスの取得を行っている。ノックアウトマウスが得られれば、表現型の解析を進める予定である。また、 ホモロジーモデリングと細胞生物学的手法を合わせ、importinα2に特定の転写因子の輸送を阻害するという新たな機能があることを見出した(発表論文、Yasuhara et al. Dev. Cell 2013)。
2: おおむね順調に進展している
マウスの作成は従来の方法で困難であったため、CRISPRを用いた手法に変更した。そのためノックアウトマウスの作成には追加の時間が必要になったが、従来法よりも早くヘテロマウスが作成できたため、おおむね計画通りに進んでいる。合わせてimportinα1の輸送メカニズムの解明を進め、特定の転写因子の輸送を阻害するという新たな機能があることを世界に先駆けて発見した。これにより、発生段階でのimportinα1の機能解析が進むと考えられる。
ノックアウトマウスが完成すれば、表現型解析に進む。発生段階で異常が見られた場合、どのような組織の形成にimportinαが関わるかを明らかにし、発生をつかさどるメカニズムの解明につなげる。その際、昨年度に見出したimportinα1の新機能にも着目し、転写因子の輸送制御を中心に研究を行う。
ノックアウトマウスの作成方法をCRISPRを用いる手法に変えたため、従来法よりも低コストで早く作成することが可能になった。本年度はノックアウトマウスの完成が見込まれるため、解析に費用を要する。また、各種抗体や核酸合成が必要となるため、未使用分はこれらの費用に充てる予定である。
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Acta Crystallographica Section D
巻: 70 ページ: 1050-1060
24699649
Developmental Cell
巻: 26 ページ: 123-135
PMID: 23906064