研究課題/領域番号 |
24570222
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
森島 信裕 独立行政法人理化学研究所, 小林脂質生物学研究室, 専任研究員 (40182232)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 筋分化 / 小胞体ストレス / カスパーゼ / ATF6 |
研究実績の概要 |
1. ATF6の特異的な活性化機構:筋分化過程においてATF6の特異的な活性化が起こるメカニズムを探っていく過程で、ATF6が非常に分解されやすい蛋白質であり、その分解がユビキチンプロテアソーム系によることを示唆するデータを得た。プロテアソーム阻害剤存在下においてはATF6の安定化が起こるが、一方でプロテアソーム活性を抑制したことによる細胞毒性が発揮され、アポトーシスが誘導された。この時、ATF6量は増加するとともに、特異的な切断によると思われる切断産物が検出された。この条件下ではATF6以外の小胞体ストレスセンサーの活性化は顕著には起こらなかった。また、同時に小胞体分子シャペロンの増大が起こることから、プロテアソーム活性の抑制によってATF6が特異的に活性化され、小胞体ストレス応答を起こす可能性が示唆された。 2. カスパーゼ12による基質切断の役割:カスパーゼ12の基質候補として、機能未知の新規蛋白質Xを同定した。カスパーゼ12による切断は蛋白質X内の一ないし二カ所で起こる。小胞体ストレスによってアポトーシスを起こした細胞中では蛋白質Xはさらに切断を受け低分子化していた。この切断はカスパーゼ3などの他のカスパーゼによる可能性がある。全長の蛋白質XをGFPと融合させて筋芽細胞中で発現させたところ、小胞体膜上に局在することを示唆するデータを得た。カスパーゼ12によって切断されて生じると考えられる細胞質ゾル側の断片のGFP融合体は核に局在した。従って、カスパーゼ12の切断は蛋白質Xの局在を変える役割を果たす可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人為的にプロテアソーム活性を抑制すると、小胞体センサーの中で特にATF6の増量と活性化が見られ、アポトーシスが起こること、同時に分子シャペロンの増加が起こることなど、筋分化過程において見られるアポトーシスと共通する現象が再現できた。筋芽細胞中においてはATF6の量的コントロールが重要で、細胞の生存のためにはATF6が少量に抑えられている必要があることを示唆している。これは、ATF6の強制発現によってアポトーシスを誘導できるという私たちの得た知見(J. Biol. Chem.誌に発表(2011))と矛盾しない。また、ATF6が特異的に活性化する仕組みにプロテアソームの制御が関わっている可能性が出てきた。一方、カスパーゼ12の基質候補については、その切断に依存した細胞内局在の変化という興味深い性質を明らかにすることができた。以上の成果は、筋分化過程における小胞体ストレス発生の機構とシグナル伝達系を調べる上で新たな方向性を与えるものであり、筋分化における小胞体ストレスの仕組みを明らかにするための手がかりとなる。
|
今後の研究の推進方策 |
筋分化過程において一時的にでもプロテアソーム活性が抑制される仕組みやタイミングがあるかどうかが、ATF6活性化機構を解明する上で今後の焦点となる。プロテアソーム阻害によって小胞体ストレスが生じるという報告が既にあるが、筋芽細胞においては、類似の状況下で特にATF6を活性化させる仕組みが存在している可能性がある。カスパーゼ12の基質候補Xについては切断に伴って局在が小胞体から核へと変化することを確認し、核においてどのような機能を発揮するかを追究する必要がある。そのためには蛋白質Xの断片を核で発現させた場合の効果を検討し、また、X断片の結合相手の探索を行うことで機能を探ってゆくことが有効であろう。このような作業を通してカスパーゼ12による基質切断が筋分化過程で果たす役割が明らかになってくることが期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究において注目している遺伝子群の機能解析を培養細胞や精製タンパク質を用いて行う研究協力者を雇用する計画を立て、謝金を計上していたが、予定していた人材の雇用がご本人の都合によりできなかった。そのため、人件費に未使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
本研究において注目している遺伝子群の機能解析を培養細胞や精製タンパク質を用いて行う人材を次年度に得て、研究のさらなる発展を図り、とりまとめを行う。そのために、この未使用額を人件費に充てることとしたい。
|