1. ATF6の特異的な活性化機構 骨格筋細胞がその前駆細胞である筋芽細胞の融合によって形成される時に小胞体ストレスが生じることを私たちは以前報告した。小胞体ストレスは様々な原因で生じるが、筋分化の過程で生じるストレスは3種のストレスセンサーのうちATF6を特異的に活性化するという特徴がある。筋芽細胞が融合する過程において小胞体膜構造がどのように変化するか、小胞体を蛍光標識して経時的に観察したところ、細胞融合の直前に膜構造が一部変形し、顕微鏡下で球状に見える構造が一過的に出現することを見出した。小胞体ストレスを引き起こす種々の条件、薬剤を用いてこの特殊構造が起きるかどうかを検討し、ATF6の特異的な活性化を引き起こす条件は小胞体からカルシウムが流出してカルシウム濃度が低下することであることを突き止めた。これを裏付けるように、小胞体膜に局在する小胞体カルシウム濃度センサーが細胞融合直前にカルシウム濃度低下を検知し、特徴的な複合体形成を行うことを合わせて明らかにした。 2. カスパーゼ12による基質切断の役割 カスパーゼ12の基質特異性は非常に厳密であり、少数種類のタンパク質を特異的に切断して何らかの重要な機能を発揮している可能性がある。前年度までに得た基質候補(タンパク質X)が生体内でも切断されているかどうかを探るため、マウス胚におけるタンパク質Xをウエスタンブロット法によって解析した。その結果、発生過程にあるマウス胚において切断が見られるほか、胚と母体の間に介在する組織である胎盤においても切断が効率よく起こっていることを示唆するデータを得た。胎盤は強い小胞体ストレスが生じていることが知られていることから、カスパーゼ12の活性化及びタンパク質Xの切断が起こることが十分考えられるため、胎盤の生細胞でこれらの分子が重要な役割を果たす可能性がある。
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