精子は卵に向かって遊泳し受精するために洗練された機能的デザインを持った細胞である。精子形成過程では、各機能を担う細胞小器官が合目的に配置されパッケージされて行く。本研究ではショウジョウバエの遺伝学とライブイメージングを駆使し、精子形態形成の概要とその分子的基盤の解明を目指している。 減数分裂後の精子核は、鞭毛軸糸の基になるbasal bodyと結合し、球形から細長く変形する。その上で核凝縮により更に小型化され遊泳に適した形状になる。ショウジョウバエの精子細胞のチューブリン-GFPライブ観察と、電子顕微鏡観察より、精子核形成には性質と由来が異なる2種類の核周囲微小管構造が関わっていることが判明した。精子核に結合するbasal bodyからは細胞質微小管が伸び核を保持している。basal bodyを欠損するDsas4変異体と、核の保持ができないLis1変異体でも、野生型同様に太い微小管の束が核の片側面に形成され精子核は正常に伸長した。つまり、この微小管束はbasal bodyとは独立に核膜側面から生じ精子核を伸長させることを示唆する。一方、それ以外の核膜領域は野生型では一層の微小管で覆われている。この微小管はDsas4変異体やLis1変異体では欠損されることからbasal body由来であることが推察される。核の凝縮が始まるころに、太い微小管束は消失するが、一層の微小管は核周囲に残り、同じ位置で染色体の凝縮が起る。この微小管を欠損するDsas4、Lis1両変異体では決まった領域からの染色体凝縮は起こらず結果的に核凝縮は不完全に終わる。つまり一層の微小管が構造的足場として核凝縮を促進している可能性を示唆している。 最終年度は核微小管構造の詳細な電子顕微鏡観察を進めた。今後の研究方針としては、微小管の染色体凝縮の足場としての役割を更に明らかにしたいと考えている。
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