研究課題
基盤研究(C)
脳の機能的な神経回路の形成には、基礎的な構造構築に加えて、軸索末端の分岐伸長、過剰突起刈り込み、シナプス形成等を含む様々な最適化の過程が存在する。本研究は、ショウジョウバエをモデルに、脳に於ける機能的な神経回路の成熟と最適化を制御する機構に焦点を当て、標的領域における軸索の微細分岐を制御する遺伝子機構の解析を行う事を目的としている。これまでの予備的実験により神経微細構造の形成が、使用する系統の遺伝的背景に大きく左右される事が確認された。このため、異なる遺伝的背景が実験結果に与える影響を排除するために、変異体の探索に先立ち、遺伝子スクリーニングに使用するすべてのショウジョウバエ系統を野生型標準系統と5世代から10世代戻し交配し、均一な遺伝的背景を確立した。さらに、神経構造の変化をより鋭敏に検出する方策として、既知の制御遺伝子を過剰発現する系統を作成し、軸索末端の分岐様式の変化を、共焦点顕微鏡画像をもとに効率よく定量的に解析する方策を確立した。さらに、これらの系統を使用して、ショウジョウバエの脳において軸索の微細分岐を制御する遺伝子を探索するために、ブルーミントンまたは京都ショウジョウバエストックセンターから入手した機能欠失型変異体について、キノコ体神経末端の分子様式を対象とした予備的探査行い、軸索末端の分岐点の数と側鎖長が野生型と比べて増加する変異系統、及び減少する変異系統をそれぞれ数個同定した。これらの結果を基礎に、さらにスクリーニングを継続すると共に、同定された候補遺伝子の神経発生における機能解析や、他の制御遺伝子との遺伝的相互作用の解析を推進して行く予定である。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究によりキノコ体の形成と可塑性を制御する遺伝子網を包括的に理解するために、ショウジョウバエ全ゲノムを網羅するマイクロアレーを用いた探索を行い、多数のキノコ体発現遺伝子を同定してきた。本研究課題では、この解析をさらに発展させ、これまでの解析では見逃してきた個々の神経細胞の軸索末端に於ける微細分岐様式に焦点を当て、キノコ体発現遺伝子のなかでも、神経回路の成熟と最適化を制御する遺伝子を探索する事を計画している。軸索末端の微細分岐は、脳の大まかな全体構造と比較して様々な個体差がある。また、それぞれの系統が持つ多様な遺伝学的背景の影響を受ける。微細構造に関するこれらの状況はある程度予想されたものであり、本課題では解析にあたり使用するショウジョウバエ系統の遺伝学的背景の統一に大きな注意を払ってきた。これにより研究計画は若干の遅れはあるもののほぼ予想通りに進める事ができた。
初年度の遺伝子探索では、簡便のため RNAi による遺伝子機能の抑制を手がかりとして探索を行うが事を計画してきたが、RNAiによる発現抑制は遺伝子ごとにその効率が異なる。このため、より統一性のある機能抑制を行うために、既知の制御遺伝子を過剰発現させることにより得られる鋭敏化された遺伝的背景を構築する。このような背景において、未知の遺伝子に関する機能欠失変異体ヘテロ接合により有効な遺伝子量を半減させる方策を併用する。また、解析の対象としてより解析が容易な神経筋結合部をキノコ体γ神経に加えて新たに採用する。ショウジョウバエ神経筋結合部は、脊椎動物の中枢と同じくグルタミン作動性であり、脳における回路最適化と共通する機構が存在する事が期待される。神経筋結合部における運動神経軸索末端の分岐様式の変化を共焦点顕微鏡によりデジタル画像化したのち、末端の微細分岐数、側鎖長、さらにシナプスブートンの総面積を集計し、遺伝子機能抑制により神経軸索末端の微細構造に変化をもたらすような遺伝子を探索する。
残額(60,190円)については24年度内に相当する金額の消耗品が納品済みである。
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http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~tokunaga/Furukubo-Tokunaga_Lab/Preface.html