研究課題
脳の機能的な神経回路の形成には、基礎的な構造構築に加えて、軸索末端の分岐伸長、過剰突起刈り込み、シナプス形成等を含む様々な最適化の過程が存在する。本研究は、ショウジョウバエをモデルに、脳に於ける機能的な神経回路の成熟と最適化を制御する機構に焦点を当て、標的領域における軸索の微細分岐を制御する遺伝子機構の解析を行う事を目的としている。神経微細構造の形成が異なる遺伝的背景により影響を受けることを排除するために、昨年までに遺伝学的スクリーニング使用するすべてのショウジョウバエ系統を野生型の標準系統と戻し交配し、均一な遺伝的ストックを確立した。さらに、キノコ体の全体構造は変化しないが、神経軸索末端の微細分岐構造が変化する系統を探索するために、既知の制御遺伝子の過剰発現により鋭敏化した系統を作成した。25年度は、これらの系統を使用して、米国および京都のショウジョウバエストックセンターから入手した様々な変異体について、キノコ体神経末端の分子様式を解析し、軸索末端の分岐点の数と側鎖長が野生型と比べて増加する変異系統、及び減少する変異系統を多数同定した。さらに、これらの変異体についてキノコ体のみならず、神経筋接合部における軸索末端構造を解析した。これにより、キノコ体神経に加えて、運動神経軸索末端の分岐様式が変化する系統を多数同定した。これらの結果を基礎に、スクリーニングにより同定された候補遺伝子について、さらに独立する変異体を解析するとともに、RNAi等による発現抑制による解析を行い、軸索の微細分岐を制御する遺伝子機構機能解析を推進して行く予定である。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究によりキノコ体の形成と可塑性を制御する遺伝子網を包括的に理解するために、ショウジョウバエ全ゲノムを網羅するマイクロアレーを用いた探索を行い、多数のキノコ体発現遺伝子を同定してきた。本研究課題では、この解析をさらに発展させ、これまでの解析では見逃してきた個々の神経細胞の軸索末端に於ける微細分岐様式に焦点を当て、キノコ体発現遺伝子のなかでも、神経回路の成熟と最適化を制御する遺伝子を探索した。軸索末端の微細分岐は、脳の大まかな全体構造と比較して様々な個体差がある。本課題では解析にあたり使用するショウジョウバエ系統の遺伝学的背景の統一に大きな注意を払ってきた。25年度はこのような独自の系統を使用して、キノコ体の全体構造には影響を与えないが、神経軸索末端の分岐様式に様々な影響を与える遺伝子を多数同定した。さらに、キノコ体に加えて運動神経末端に着目し、多数の遺伝子を同定することができた。
これまでに、キノコ体神経を対象として、既知の制御遺伝子の過剰発現により鋭敏化した遺伝的背景を構築し、制御遺伝子の探索を進めてきた。新たに、解析の対象として解析が容易な神経筋結合部を採用し、運動神経軸索末端の分岐機構に変化を与える多数の変異体を同定した。ショウジョウバエ神経筋結合部は、脊椎動物の中枢と同じくグルタミン作動性であり、脳における回路最適化と共通する機構が存在する事が期待される。神経筋結合部における運動神経軸索末端の分岐様式の変化を共焦点顕微鏡によりデジタル画像化したのち、末端の微細分岐数、側鎖長、さらにシナプスブートンの総面積を集計し、遺伝子機能抑制により神経軸索末端の微細構造に変化をもたらすような遺伝子を探索する。さらに、同定した遺伝子について、一次スクリーニングで使用した物とは異なる変異体を入手し、末端分岐形成における遺伝子相互作用を検討する。また、RNAi系統を使用して、神経細胞特異的な遺伝子活性の抑制を行い、軸索分岐形成に対する効果を明らかにし、軸索の微細分岐を制御する遺伝子機構の解析を推進する。
支払日を基準とするため、25年度末計上の物品が発生したため。残額(20,505円)については25年度内に相当する金額の消耗品が納品済みである。
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