研究課題/領域番号 |
24570233
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
川上 厚志 東京工業大学, 生命理工学研究科, 准教授 (00221896)
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 再生 / 細胞系譜 / トランスジェニック / Fgf / Wnt |
研究概要 |
組織ホメオスタシスは多細胞体の重要な特性であるが、特に、魚類などの生物では、組織が大きく失われた際でも完全に再生することができる。本研究は、再生の個々の細胞レベルの分子機構解明を目指し、鰭の再生をモデルとして、再生に必須のシグナルや分子の解析を進めている。今年度の研究実績は以下の通りである。 (1)再生におけるシグナルメカニズム: Fgf、Wntシグナルは尾部鰭の再生に必須であることが過去に示されてきたが、細胞レベルの作用機序は明らかにされていない。昨年までに、Fgf20aエンハンサートラップゼブラフィッシュの解析から、Fgf20aが最も再生初期に上皮に発現することを明らかにしたが、今年度、さらに解析を進めた結果、初期上皮に誘導されるFgf20シグナルは間充織細胞に作用して再生芽を誘導し、続いて先端部再生芽細胞がFgf3, 7, 10などを発現して、再生芽細胞の増殖が進行することを明らかにした(論文準備中)。 (2)細胞系譜解析系の確立:Cre-loxPを用いた細胞系譜追跡と、細胞アブレーションによる機能解析のためのトランスジェニックの確立を進めてきた。今年度、Cre組み換えの効率を最適化するため、改変型のCre作製、BACトランスジェニックの作製を進め、極めて効率よく組み換えを起こさせる系を確立出来た。 (3)再生細胞生存因子の解明: 組織再生には多数の近距離、遠距離の因子が関与すると考えられる。私達は、昨年までの研究で、造血系細胞の欠損が再生細胞の生存と増殖に必要であることを明らかにしていた。今年度、ゼブラフィッシュ幼生尾部外殖体によるアッセイを確立し、これを用いて、再生細胞生存因子が体液中を拡散する因子であること、熱安定な低分子量の物質であることなど、生化学的性質についてを解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に計画していた研究のうち、再生組織におけるFgf, Wntシグナルの作用点の解明については、fgf20a トランスジェニック(Tg)とドミナントネガティブFGFレセプターTgを用いた解析から、Fgfシグナルの上皮と間充織における2段階の作用機構を明らかにすることができ、論文作製を進めている。予定通り進捗している。Wntシグナルの解析に関しては、リガンド候補を同定できたものの,再生で必須の作用をもつかどうかの検証が難しく、Tg作製などを待ってから,さらに解析を進める。 Cre-loxPを用いた細胞系譜およびこれを利用した細胞アブレーションに関しては、様々のコンストラクトでTg作製を行ったが、一部成功しているもののCre組み換え効率が非常に低い問題で研究予定がかなり遅れてきた。そこで25年度に集中して、改変型Creの試験などを行い、ゼブラフィッシュに最適化されたCre組み換え系が出来てきた。今後のTg作製と解析はスムーズに進行すると期待している。 我々の独自の系で明らかになってきた細胞生存因子の同定に関しては、予定していた高速シーケンサーによるトランスクリプトーム解析、さらに候補分子のノックダウンなども行ったが、期待していたアポトーシスフェノタイプは得られなかった。そこで、生化学的な分子精製によって、因子の同定を行う方針をとり、生物アッセイ系の確立を行い、定量的に活性をアッセイ出来る系の構築ができたところである。今後、本格的な精製と解析に進む。 以上、2年目で若干の計画修正はあるが、すべて問題は解決でき、再生における細胞間相互作用のメカニズム解明に向けておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況に基づき、今後、以下のように研究を進める。 (1)最適化Cre-loxPシステムを用いたトランスジェニックの作製:今年度で検討を行った最適化Creを導入したBACを用いて、新たにトランスジェニックの作製、解析を進める。これらのドライバーラインは、当初計画通り、私達がすでに作製しているレポータートランスジェニックと組み合わせて再生細胞の系譜解析を順次行い、Fgf, Wnt阻害による細胞系譜への影響も解析していく。 (2)細胞系譜解析とアブレーション: 当初計画に基づいて、再生細胞のサブセットを永続的に蛍光でラベルし、子孫細胞の追跡,再生時と非再生時の間の細胞サイクリング解析を行う。再生組織の細胞がどのような子孫細胞に分化するかなど、細胞の系譜を明らかにすることを目標とする。また、このようにラベルされた分化組織から再び再生を行わせ、再生細胞の起源や細胞サイクルについても明らかにする。当初計画に沿って、再生上皮、再生上皮基底層、先端再生芽細胞、再生芽細胞、再生骨芽細胞に発現する遺伝子について、Creドライバー系統の作製と解析を目指す。 (3)再生細胞生存因子の精製、同定: 上記のように、生存因子はトランスクリプトーム解析から得られた候補では絞り込むことが出来なかった。これと一致して、外殖体アッセイを用いた予備的な実験の結果、因子は非常に低分子量の非タンパク性物質である可能性も示唆された。そこで、今後は生化学的な手法で、因子活性の濃縮から質量分析などの手法によって、活性の実体を特定していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度、スペインで開催されたゼブラフィッシュミーティングへの出席を予定していたが、学生は博士リーディングプログラムの予算で出席、発表を行ったが、当研究代表者は諸事情で出席しなかった。 Creドライバートランスジェニック作製が、期待通りの効率が得られないことで進捗が遅れたため、予期していた物品費が少なかった。 また、大きな理由として、当研究代表者は講座制の研究室に所属し、汎用の消耗品は全体で購入しているため、各研究室分を切り分けるのが難しい。今年度は、汎用の消耗品購入費が少額であった。 耐用年数を超えた機器や頻繁に故障を繰り返している機器で長年使用しているものがあるが、これらを新たな低電力、省スペース、低故障なものに更新、ないしは完全に修理する。 今年度までは、汎用の消耗品の購入が少なかったが、次年度は当研究費から多めの購入をしなければならない。また、常に使用している試薬、低分子阻害剤、化合物なども、グラム単価が非常に安価となる大きな単位で購入する。
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