研究課題/領域番号 |
24570238
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
福田 公子 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (40285094)
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キーワード | BMP / シグナル調節 / 内胚葉 / 消化管 / 肝臓 / アポリポタンパク質 |
研究概要 |
まず,前腸腹側の3つの領域,肺,胃,肝臓の領域化に関わるBMPシグナルの調節機構を引き続き研究した.昨年このBMPシグナルの調節に,chordin, Tolloid, sizzledが関わることが示した.本年度は,前腸形成初期から前腸領域化期までの,BMPシグナルや,sizzledの発現域の変化を解析した.その結果,前腸形成初期には,前腸腹側内胚葉全体でBMPシグナルが強いこと,前腸伸長とともに後方で強く,前方で弱くなることがわかった.さらに肺の領域化の時期に,肺領域でのBMPシグナルが強くなった.一方sizzledは前腸形成初期には前腸腹側内胚葉全体で発現していた.この結果は,sizzledがBMPシグナルを阻害して領域化に関わるという,前腸領域化期の結果と矛盾する.Xenopusでは,内胚葉においてsizzledがBMPシグナルを正に制御する (Kenny et al., 2012).よって,前腸形成初期と前腸領域化期で,sizzledは BMPシグナルに対し全く逆の作用を及ぼす可能性がある.また,脂質代謝関連因子APOA1の作用機序に関する研究も行った.昨年度,Hela細胞とXenopus胚でAPOA1の導入により,BMPシグナルが1.5倍ほど増強されることを得た.本年度は,その作用機序に迫るため,APOA1とBMPシグナル応答性のレポーターコンストラクトを別の細胞,または別の割球に導入したところ、APOA1によるBMPシグナルの増強は見られなくなった.このことから,APOA1は細胞自立的または非常に近傍の細胞にのみ影響し,BMPシグナルを増強していることが示唆された.これは,昨年度までに得られていたsiRNAでAPOA1 をパッチ状に阻害しても,Hex遺伝子の発現が抑えられる細胞が出ることと一致している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
sizzledは,BMPシグナルを負に調節する細胞外タンパク質として有名である.我々の昨年度の成果は,sizzledが前腸でもBMPシグナルを負に調節する事で胃/肝臓領域の位置の調節に重要であることをしめした.しかし,この結果はXenopusの内胚葉におけるsizzledの機能であるBMPシグナルの正の調節とは矛盾していた.本年度の解析により,この違いが時期の違いによるsizzled機能のスイッチングである可能性が出て来たことは非常に興味深い結果と思われる. また,APOA1の機能について2つの手がかりを得た.一つはAPOA1は細胞自立的または非常に近傍の細胞にのみ働くということである.APOA1はアポリポタンパク質でHDLの主要構成因子である.現在までAPOA1の機能はHDLとの関連でのみ研究されてきた.成体では血漿中で機能するタンパク質であるが,前腸領域化期には前腸に血管が未発達のため,血漿は存在しない.またAPOA1は胚体外の卵黄と接する暗域で強い発現があるにもかかわらず,肝臓領域に発現するAPOA1をsiRNAで阻害すると,その部分で肝臓マーカー遺伝子Hexの発現が阻害されることから,成体と違い,このAPOA1の機能は局所的であることが予想されていた.これが証明されたことで,APOA1の新たな機能へと展開できると考える.さらに,Hela細胞にAPOA1を導入すると,BMPの導入の有無にかかわらず,Hela細胞の増殖が2倍ほどに増えることも発見した.APOA1はBMP以外のシグナルの強化に働いている可能性がでたということであり,BMPシグナルの増強もこれらの多くのシグナル強化と同じ作用機序である可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は以下の3つの研究を進めるつもりである. 1,前腸形成初期のsizzledの機能解析とスイッチング機構の解析:BMPシグナルの阻害因子であるsizzledが前腸形成初期にもBMPシグナルを阻害しているのかどうかを,解析する.前腸形成前のステージ5,前腸形成後のステージ8で前腸腹側(予定域)内胚葉にコンストラクトを導入すし,sizzledの強制発現,およびsiRNAによる阻害実験を行う.既に昨年の実験でステージ5にsizzledを強制発現してステージ10-13まで培養すると,BMPが阻害され,肝臓マーカーHexの発現が下がることがわかっているので,ステージ5で導入した胚をステージ6,7まで培養し,その時のBMPシグナルやHex遺伝子の発現を調べる.またステージ8で導入した胚とも比較し,sizzledの機能解析を行う.さらにもし,Xenopusのように初期ではBMPシグナルを正に調節していた場合には,いつから機能が変化するのかを解析し,その機構を解析する. 2,APOA1の機能解析:本年度得られた情報にもとづいて,APOA1の機能解析を行う.まず,Hela細胞の増殖をあげるシグナルの情報収集を行う.候補となるシグナルには,EGFR,HGFなどがある.肝臓形成に必須と言われるFGFはEGFRを通して働く可能性があり,HGFは肝臓形成に重要な因子である.そこで,Hela細胞やニワトリ胚でこれらのシグナルがAPOA1によって上昇しているのかを解析する.もしこれが上昇していた場合には,APOA1はこれらのシグナルに共通する部分を介してシグナル増強を行っている可能性があるので,それを解析する. 3,Glypican3の機能解析:昨年度,目標にあげながら手を付けられなかった前腸腹側正中におけるGlypican3の機能を解析する.
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