研究課題/領域番号 |
24570240
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
木下 勉 立教大学, 理学部, 教授 (30161532)
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研究分担者 |
森近 恵祐 立教大学, 理学部, ポストドクトラルフェロー (30593074)
久保 英夫 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究部門, 研究員 (50178034)
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キーワード | アフリカツメガエル / Oct60 / 多能性幹細胞 |
研究概要 |
平成24年度の研究により、アフリカツメガエルの成体では、Oct60発現細胞が生殖巣に局在して生殖幹細胞として働くとともに、肝臓、腎臓、骨髄に定着して、造血系幹細胞としての機能を果たす可能性を見いだした。そこで平成25年度は、Oct60を発現する細胞の起源を解析するとともに、始原生殖細胞、造血幹細胞の形成におけるOct60の機能を解析した。 1.初期発生におけるOct60発現細胞の出現時期、出現場所を網羅的に検出するために、Oct60遺伝子のプロモーターをGFPに結合したレポーターコンストラクトの遺伝子導入個体を作製した。初期発生の過程では、始原生殖細胞と思われる大形細胞が背側生殖巣近傍で観察されたが、変態後の子ガエルの血流からGFP蛍光を示す細胞を検出できる個体は得られなかった。免疫組織化学的な解析では、幼生期の肝臓、腎臓、血液からOct60発現細胞が検出されることがわかった。血液中から検出されるOct60発現細胞は赤血球、リンパ球より小型で丸く細胞質が少ないため、パーコールの密度勾配遠心により濃縮可能であることがわかった。 2.Oct60を受精卵の植物極表層に局在する生殖質へ注入し、始原生殖細胞形成への影響を調べた結果、野生型分子の過剰発現では始原生殖細胞の生殖隆起への移動が阻害され、N末端欠損型分子の過剰発現では、始原生殖細胞の形成阻害が起こることが観察された。造血幹細胞の形成に及ぼすOct60の影響を調べるために、成体造血細胞の起源となる尾芽胚の背側側板中胚葉領域においてOct60の過剰発現と機能阻害を行ったが、明確な表現型が得られなかった。そこで、Oct60の遺伝子欠損が及ぼす造血幹細胞への影響を解析するために、TALEN法を用いた遺伝子ノックアウト個体を作製したが、表現型の解析までには至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度では、初期発生におけるOct60発現細胞の網羅的解析を目標とし、Oct60遺伝子の発現細胞をGFP蛍光で検出するトランスジェニック個体を作製した。遺伝子導入の有無を眼のクリスタリンプロモーターを使って判定するコンストラクトを使用し、遺伝子導入が十分な成功率で行われたことを確認することができた。血流中のOct60発現細胞をGFP蛍光により可視化できる系統はまだ得られていないが、今後のスクリーニングにより系統樹立は可能と考えている。Oct60発現細胞をパーコールにより濃縮できる可能性が得られたことは大きな収穫であり、Oct60発現細胞の分化能力を解析するためのツールとして期待される。 Oct60の機能解析については、転写因子であるOct60のN末端を欠損したコンストラクトを作製して、始原生殖細胞の形成におけるOct60の機能を調べることができた。しかし、初期胚にmRNAを注入する欠損フォームの一過的発現では、発生後期に働く成体型造血幹細胞に対してドミナントネガティブな効果を得る事はできなかった。そのため予定を変更してTALEN法を用いた遺伝子破壊個体を利用することとした。アフリカツメガエルではOct60AとOct60Bの2つの遺伝子が使われているが、2組のTALENコンストラクトを同時注入することにより、Oct60遺伝子の同時ノックアウトができることを確認することができた。年度内に遺伝子ノックアウト個体の表現型を得るところまでには至らなかったが、おおむね当初の目的を果たすことができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成26年度は、多能性を保持していると予想されるOct60発現細胞の分化能を解析するとともに、従来報告されている組織幹細胞に対してOct60がどの様な影響を及ぼすのかを解析し、全体の総括を行う予定である。 1.Oct60発現細胞を可視化したトランスジェニック個体から単離したOct60発現細胞は、野生型個体へ移植後、細胞の分化に伴いGFP蛍光の発現は消失するものと考えられるため、細胞の分化能力を解析する実験には適していない。そこで、全身でGFPを発現するトランスジェニック個体の血液からパーコール密度遠心によりOct60発現細胞の分画を単離し、野生型胚の胞胚腔あるいは幼生の腹腔内へ細胞移植し、GFP蛍光を指標に移植細胞の分化能力を解析する。ツメガエルでは、幼生後期に自己免疫が確立するため、それ以前に移植した細胞は定着して変態後も細胞運命を追跡可能である。対照実験として、表皮細胞、始原生殖細胞の分化能力との比較解析を行う予定である。 2.アフリカツメガエルでは32細胞期の各割球の発生運命が詳細に解析されている。この発生運命図に従って32細胞期の特定割球にOct60のTALEN用合成RNAを顕微注入し、標的とした組織幹細胞形成への影響を解析する。TALENコンストラクトを導入できた組織領域はローダミンデキストランの共注入によりモニターし、遺伝子ノックアウトの有無はCel-1アッセイと塩基配列の確認により行う。組織別遺伝子ノックアウトを誘導した個体について、組織幹細胞のマーカー遺伝子(造血組織ではBmi1、表皮組織ではp63、神経組織ではNRP1など)の発現量の定量および免疫学的な細胞検出を行い、組織幹細胞の形成・維持におけるOct60遺伝子の機能を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の収支状況はおおむね予定通りであり、8039円を次年度繰り越し金とした。平成26年度の助成金と合わせて使用する。 平成26年度の研究費は、Oct60発現細胞の分化能力を解析するグループ、組織幹細胞に及ぼすOct60の影響を解析するグループ、いずれのグループにおいても多くの試薬とプラスチック器具、ガラス器具を使う予定であり、研究経費のほとんどを消耗品費として使用する。 生物材料となるアフリカツメガエルについては、人工受精用の成体に加えて、変態後の子ガエルも使用するため、年間50匹以上を購入予定である。2つの研究グループともに幼生および成体の組織学的解析が必須であり、固定液、染色液、抗体など免疫組織化学的解析に必要な試薬、ガラス器具の購入を予定している。また、Oct60の過剰発現用コンストラクトの調製用試薬およびRNA合成用の試薬、TALENコンストラクト用RNA合成試薬、プラスチック器具の購入も予定している。最終年度となるため、得られた研究成果を発表するための学会出張の旅費と論文投稿料を見積もっている。
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