研究概要 |
小脳は緻密な運動制御を担うため、その神経変性によって重篤な運動失調を引き起す。研究代表者はこれまでに、マウスES細胞から移植可能な小脳プルキンエ細胞と顆粒細胞を、効率よく分化させる三次元浮遊培養法を報告している。本課題では、この分化誘導法をヒト多能性幹細胞へと応用し、個別の神経細胞への分化に留まらず組織構造を伴った小脳を作り上げる事を目指している。本法の確立により、ヒト小脳における初期発生研究のための新規で、且つ、有用な解析モデルを提示する事が可能となる。また、神経変性疾患である脊髄小脳変性症は遺伝子的背景が強いため、患者由来のiPS細胞へ応用すれば原因究明や創薬研究への可能性が広がる。 分化誘導は小脳の発生過程を忠実に再現すること、即ち、(1)神経管の前後軸を制御し峡部形成体領域(オーガナイザー)を誘導する、次に(2)背腹軸情報を与え小脳の発生場へと収束させるよう試みた。これまでのところ、hES細胞においても分化誘導初期のFgf2がオーガナイザー周辺領域を誘導し(En2+, Gbx2+, Otx2-)、腹側化作用を持つhedgehogの阻害、および、背腹化作用を持つBMPシグナルによって小脳神経前駆細胞を誘導できる事を見出している(Kirrel2+, Ptf1a+, SKOR2+, Atoh1+)。これはマウスES細胞で見出した系と同様である。これら神経前駆細胞が機能的で成熟した細胞になりうるのか、長期培養後の機能解析を行うとともに、より小脳組織らしい構造を作り出せる系へと改良を進めている。
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