研究課題
神経発生過程では、時空間的に厳密な制御の下で、ステレオタイプな回路パターンが形成される。軸索は、多くの中間標的に出会い、次の進行方向を決定するが、その際、ガイダンス分子に対する反応性を、正しい場所、かつ正しいタイミングで切替える必要がある。その分子基盤は不明のままである。重要な中間標的として知られる腹側正中線を交叉するかどうかは、正中線が分泌する反発性分子Slitと軸索上のRobo受容体に依存する。本研究は、正中線を交叉する軸索が、いかにして、正中線でタイミングよくSlit反応性を獲得するのか、その仕組みの解明を目指すものである。これまでの結果から、Slit反応性スイッチの根幹には、感作型反応とそれを抑制するシステムがある可能性が高い。本研究では、引続き、その実体の解明を目指す。まず、交叉後のニューロンをSlitで刺激すると、軸索のSlit反応性は減弱されず、むしろ増強されることが分かった。また、エンドサイトーシスとリサイクリングの両方が、Slit反応、更に、Slit自身によるSlit反応性の増強に必要であった。この輸送経路を抑制すると、却ってRobo受容体の軸索レベルとSlit反応性が顕著に低下することから、細胞膜と細胞内を往復するRobo受容体の輸送サイクルが回転することが、Slit-Roboシグナリングに必須であり、何らかの細胞内シグナルを増強すると予想された。平成24・25年度の研究の結果、その要となるのは、Arf GTPアーゼと判明した。更に、その活性化因子としてGEFs (guanine nucleotide exchange factors)を同定し、その生化学的・細胞生物学的な機能解析とin vivoレベルでの検証を行っている。Slit反応の制御回路の中心部分を解明したい。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に記載した、Slitシグナル経路が感作型反応であることの証明、エンドサイティックリサイクリング輸送経路の重要性の解明、またこの経路をon/offする生化学的機構を、現在、かなり解明しつつある状況にあることから、おおむね、当初の予定どおり、研究を進展できたと考える。
平成24年度の研究計画に相当する部分は予定以上に大きなプロジェクトとなったが、軸索反応性スイッチを構成する興味深い分子回路が浮かび上がってきた。現在、論文をまとめており、まもなく投稿する予定である。非常に意義のある知見を複数得ることができたため、かなり高インパクトの論文に仕上げられそうである。平成26年度上半期は、引続き、この論文の投稿と完成に集中する。後半期から、平成25年度以降の研究予定項目、Slit-Robo-srGAPとミオシン系の相互作用の意義、及び新規アンキリンリピートドメイン蛋白質Ankrd50の機能に関する研究を開始したい。
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Developmental Cell
巻: 25 ページ: 374-387
10.1016/j.devcel.2013.04.015.