研究課題/領域番号 |
24570249
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
渡部 輝明 高知大学, 教育研究部医療学系, 講師 (90325415)
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研究分担者 |
岸野 洋久 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (00141987)
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キーワード | 分子進化 / タンパク質多様化圧 |
研究概要 |
インフルエンザウイルス(Flu)のヘマグルチニンタンパク質では、アミノ酸配列の緩やかな連続変異に伴い、抗原性が階段状に変異していくことが知られている。緩やかな連続変異は、交差免疫の作用により遺伝的な多型を残すことなく進み、一次元的な変異として記述され得る。その一方で抗原性は、比較的大きな変異が断続的に起きており、この抗原性の変異によってFluを幾つかのクラスターに分割することが出来る。しかし、抗原性に生じるこの断続的な変異のメカニズムは未だ解明されていない。本研究では、タンパク質上で起きたアミノ酸配列変異にかかる選択圧を、時空間的揺らぎを含めて検出することを目的としている。抗原性によって分けられたクラスター毎に選択圧分布を解析することで、Fluに生じた遺伝的変異の淘汰機構がどのように抗原性の断続的変異に影響したのかを調べる。本年度では、空間分布モデルで既に開発した選択圧の事前分布を、時空間分布検出へ拡張した。空間分布モデルと同様に、事前分布はイジング模型を用いて構築しており、そこでは変異の浄化をもたらす状態から、遺伝子配列の多様化をもたらす状態までを10段階のdN/dS比で記述している。各アミノ酸残基における状態間遷移は、ギブスサンプリングによって実現している。 開発した解析手法をFlu(H3N2型)の1968年から2003年までの分離株に適用した。クラスターの一つであるBE89は、他のクラスターとは異なり子孫となるウイルス株を持ない絶滅した一群である。そのためその特徴を知ることで、抗原性変異のメカニズムの解明に近づくことができる。開発手法を適用した結果、BE89では多様化圧のかかっているアミノ酸残基におけるアミノ酸置換のほとんどが、化学的な性質を変えない“無駄な”アミノ酸置換で占められていることが判明した。これは他のクラスターでは見られない現象であり、引き続いて結果の検証を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インフルエンザウイルス(H3N2型)のヘマグルチニンタンパク質における変異淘汰を時空間の揺らぎを含めて検出することができた。論文として発表することが平成25年度中に完了していないため、平成26年度の早い時期に完了する予定でいる。
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今後の研究の推進方策 |
H3N2型インフルエンザにおける連続抗原変異に見られる断続的な抗原性の変異のメカニズム解明に結びつくBE89での多様化圧分布の解析結果を数理モデルを用いて解釈する必要がある。また、クラスター毎の解析に使用した手法をさらに細密化して、進化系統樹上の枝毎の解析が可能となる手法の開発を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度から繰り越した48万円程度の研究費を含めて概ね計画通りに使用したが、37万円程度を未使用なまま残した。 平成25年度に北海道大学の研究者との共同研究を始めており、37万円程度の未使用分を平成26年度では旅費に使用する予定でいる。
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