研究課題/領域番号 |
24570250
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
安増 茂樹 上智大学, 理工学部, 教授 (00222357)
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キーワード | 硬骨魚類 / 卵膜 / 分子進化 / ZP遺伝子 |
研究概要 |
孵化酵素と卵膜構成タンパク質(卵膜タンパク質)は、卵膜の分解を維持しつつ共進化している。 申請者は、魚類孵化酵素の卵膜分解機構の進化について研究してきた。その過程で、卵膜タンパク質遺伝子の進化過程での変化が効率の良い分解系の獲得に深く関与している結果を得た。本研究では、卵膜タンパク質遺伝子の進化、特に進化過程の発現領域の変化に焦点を当てて研究を進めた。カライワシ類のウナギでは、卵膜は卵巣内の卵細胞により合成されると考えられている。一方、その後に分岐した正真骨魚類では、卵膜タンパク質は、肝臓により合成されることが知られている。骨鰾類では、卵膜遺伝子は卵巣で発現していることが知られており、進化過程で遺伝子の重複とその後に発現場所の変換が起きたことを示している。本研究の目的は、発現場所の変換が起きた時期を推定することと、肝臓発現の卵膜遺伝子と卵巣発現の卵膜遺伝子の分子進化をしらべることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵膜の遺伝子は、いくつかの異なったサブタイプ遺伝子が存在して、魚類では、ZPBとZPC遺伝子が知られている。ニシンの卵膜遺伝子をクローン化すると卵巣と肝臓のRNAより、それぞれ、ZPCとZPB遺伝子がクローン化される。このことは、卵膜遺伝子重複と一方の遺伝子発現領域の転換が正真骨魚類とニシン・骨鰾類の共通祖先で起きたことを示している。ニシンの卵膜は、2重層になっていることから、卵巣由来の卵膜タンパク質と肝臓由来のタンパク質が別々の層を形成していることが期待された。卵巣由来と肝臓由来卵膜タンパク質のペプチド抗体を作成して卵膜を染色すると肝臓由来のZPBとZPCタンパク質は、両方の層の卵膜を同じように染める。個の結果と、肝臓発現ZPBとZPC遺伝子の発現が、卵巣発現遺伝子に比べ圧倒的に強いことと合わせると、ニシンでは、卵膜の構成成分は主に肝臓で合成されることが示唆される。また、骨鰾類のナマズ目とカラシン目の3種の魚より卵膜遺伝子をクローン化すると、3種のZPBとZPC遺伝子は、すべて卵巣で主に発現していた。ゼブラフィシュなどのコイ目の魚の卵膜遺伝子が卵巣で発現していることと合わせ、骨鰾類では、卵膜は卵細胞が合成すると考えられる。このことは、骨鰾類への進化過程で肝臓で発現する卵膜遺伝子は失われ、卵巣発現の遺伝子のみが卵膜構成の役割を担うようになったと考えられる。以上のように、硬骨魚類における卵膜遺伝子の進化過程が明らかとなってきた。
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今後の研究の推進方策 |
ニシン肝臓由来の卵膜タンパク質抗体が、2層の卵膜の全域を染色するが、卵巣由来の抗体の染色部位が明らかとなっていない。免疫組織化学の実験を工夫して行うことで、局在を明らかとする。前述のように、ニシンにおいて卵膜は、主に肝臓由来の卵膜タンパク質によって形成されていたが、もう一方の大きな分類群である正真骨魚類においても同様で、卵膜の構成タンパク質は、主に肝臓で合成されているにもかかわらず、卵巣で発現する遺伝子が維持されていることが知られている。最終年度の目的は、正真骨魚類の卵膜発現遺伝子の機能を推定する。メダカを用いて卵膜発現遺伝子(ZPAX、ZPB、ZPC)の一部を用いてリコンビナントたんぱく質作成し抗体を得る。その後、卵巣でのそれらの局在を免疫組織化学的に検出する。なぜ、ニシン目と正真骨魚類では、肝臓由来のタンパク質が卵膜の主な構成成分となっているのに、卵膜発現遺伝子が維持されているのだろうか?タンパク質機能の側面より明らかとすることを目指す。また、孵化酵素遺伝子の分子進化を俯瞰すると、カライワシ目では、単一種の遺伝子であるが、正真骨魚類とニシン・骨鰾類の共通祖先で、卵膜遺伝子と同様に遺伝子重複が起き、その結果、2種の酵素による効率の良い分解系に進化している。さらに、ニシン・骨鰾類の進化過程で1つの遺伝子をうしない、骨鰾類では、単一酵素の分解系になる。つまり、孵化酵素の卵膜分解機構の進化は、卵膜遺伝子の発現領域の変化と良く対応する。孵化酵素と卵膜は、基質と酵素の関係となり、分子共進化していると考えられる。遺伝子の重複と喪失の進化的位置が、両遺伝子で一致しているのは、どのような理由によるかを、タンパク質レベルの研究より明らかとすることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
来年度に消耗品を購入するために節約した。 消耗品を購入する。
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