研究課題
基盤研究(C)
現生狭鼻猿(類人猿及び旧世界ザル)は、元々、アフリカで進化し、中新世の間にアフリカを出てユーラシアに広がっていった。本研究は、旧世界における狭鼻猿の進化と多様性を理解する一環として、アフリカとの比較も念頭におきつつ、東南アジア更新世における化石狭鼻猿の多様性を調査するものである。平成24年度には、国内においては、京都大学霊長類研究所の霊長類骨格標本を利用して、化石種との比較データの収集を実施した。具体的には、現生の旧世界ザル類の中から、コロブス亜科に重点を置いて、頭骨および歯牙に関して、それぞれ1個体あたり数十項目の計測をおこない、計測データを得た。化石標本の観察時に利用するために歯牙の状態のよい標本を抽出してデジタルカメラによって形態を記録した。国外については、平成25年3月にベトナムの首都ハノイにあるベトナム考古学研究所を2週間訪問し、これまでにベトナム北部の石灰岩地帯にある洞穴遺跡などから出土し、同研究所に保管されている霊長類化石の調査にあたった。これらの化石標本は、発掘時にフィールドナンバーが振られたものもあるが、ナンバーなしのまま残されているものもある。また、フィールドナンバーがあるものでも、標本に直接番号が書き込まれているのみである場合が多く、保存されているうちに番号が判別困難になってしまったものも少なくない。そこで、ベトナム考古学研究所の動物考古学担当者と話し合い、新たに登録番号を標本に振り、標本ごとにデータを記録したカードとともにプラスチックバッグに入れて保管することとした。今回は、担当者と協力してラン・チャン(Lang Trang)遺跡出土の化石を中心に、数百個に及ぶ標本を整理・登録した。また、ベトナム北部の諸洞穴遺跡から出土したオランウータンをはじめとする霊長類化石を確認し、概要を得た。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度には、ベトナムの首都ハノイ市にベトナム考古学研究所への2週間の訪問をおこない、同研究所対応者らとの研究連絡を済ませ、これまでフィールド番号のみ、もしくは無番号の状態におかれていた更新世霊長類化石標本に統一した形式で番号を与え、登録することに至った。今回、主にラン・チャン遺跡出土の霊長類化石について整理をし、ほぼ登録し終えた。さらに、ベトナム北部の他の洞穴遺跡から出土した霊長類化石についてもある程度観察をおこない、テナガザル類の化石などについては計測や写真撮影もおこない、データを収集した。また、ヒトであるかオランウータンであるか議論のある標本についても、詳細な観察や計測、写真撮影を済ませた。現生霊長類の比較データの収集に関しては、京都大学霊長類研究所において、コロブス亜科を中心とした歯牙と頭骨の計測データをかなり収集したが、まだ、今後、マカク類のデータを収集する必要がある。シンガポールのラッフルズ博物館にも現生霊長類骨格標本の計測に赴く予定であったが、残念ながら博物館が標本の移転作業を開始することになったため、国内での計測を優先的に進めた。
ベトナム考古学研究所の対応研究者らとは良好な関係を構築しており、平成25年度にもベトナム考古学研究所を再度訪問し、前回の訪問では予備的な調査にとどめた他の洞穴遺跡出土のオランウータン、テナガザル、コロブス亜科、マカカ類などの霊長類化石を、順次、整理・登録するとともに、形態学的データを収集する予定である。これらの化石のなかには、まだ考古学研究所のベトナム語による報告書等の中にその出土が記録されているにすぎないものもあり、それらの記載を進めていく。また、発掘の記録なども、ベトナム語の報告書しかない場合が多くあり、ベトナム人研究者の協力を得ながら、それらの情報も収集していくつもりである。現生霊長類からの比較データの収集については、国内の京都大学霊長類研究所や日本モンキーセンター等の施設における計測・観察を続行するとともに、国外の博物館にも出かけて、現生霊長類骨格標本の計測・観察を実施し、データを収集する予定でいる。
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進化人類学会分科会ニュースレター
巻: 27 ページ: 4-6
Primates
巻: 53 ページ: 397-411
10.1007/s10329-012-0317-3