本年度はマウスとヒトにおいて、混色光に対する内因性光感受性網膜神経節細胞の光反応性について調べた。マウスにおいて、昨年度視交叉上核のニューロンが単色光に比べ混色光に対して強い反応を示すことを報告した。本年度はセロトニン神経系に属し、視交叉上核と神経回路を形成することにより概日リズムの光同調を調節する背側縫線核のニューロンの光反応性について調べた。その結果、背側縫線核のニューロンも、単色光に比べ混色光に強い光反応性を有することがわかった。また、申請者らはマウスの剥離網膜標本において網膜電図の記録を試みた。外科的・薬理学的にすべての錐体視細胞および桿体視細胞の機能を完全に損なったマウス網膜では通常網膜電図は消失すると考えられる。しかしながら、申請者らは容積伝導の少ない特殊な記録電極を用いて内因性光感受性網膜神経節細胞の活動を反映する網膜電図成分を同定することができた。本網膜電図はおよそ480nmの波長に最大分光感度を有すること、Wengら(2013)がパッチクランプ法で行った実験結果と同様にmeclofenamic acidによって網膜電図を大きく減弱すること、そして、時間周波数に対する応答性がヒトとマウスでほぼ同じであることを見出している。一方、申請者らは、ヒトの光瞳孔反応を指標にして、混色光に対する内因性光感受性網膜神経節細胞の光反応性について調べた。その結果、光刺激量の混合比に関係なく、混色光に関する刺激応答曲線は、ほぼ同じであった。瞳孔の反応が弱い600 nmの条件を除くと、単色光刺激と混色光刺激でも、刺激応答曲線に大きな違いはなかった。明るさ知覚と同様に、サーカディアンシステムの光応答における劣加法性が示された。
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