ペルーの品種Jamaicaと多くの温帯ジャポニカ品種との間に見られる雑種弱勢は,LEUNIG相同遺伝子をコードするHWC1の対立遺伝子Hwc1-1と,NB-LRR遺伝子をコードするHWC2の対立遺伝子Hwc2-1のエピスタティクな相互作用によって生じる.HWC1はコリプレッサーとして知られるGroucho/Tup1遺伝子ファミリーに属しHWC1の日本晴対立遺伝子をイネの葉身で一過性発現するとカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターに連結したレポーター遺伝子(蛍光タンパク質mVenus)の発現を抑制する効果があった.ところが,日本晴とは1つの非同義置換を持つ JamaicaのHWC1対立遺伝子は35Sプロモーター発現抑制効果が低く,日本晴対立遺伝子と共に発現させた場合,35Sプロモーターによる蛍光の抑制効果は打ち消された.この対立遺伝子による相違はイネのユビキチンプロモーターでレポーター遺伝子を発現させた場合には見られず,HWC1による遺伝子発現抑制はプロモーターに対する特異性を持つことが明らかになった.一方,本研究課題において酵母ツーハイブリッド法 (Y2H)によりHWC1タンパク質が二量体以上のホモタンパク質複合体を形成する結果が得られた.このHWC1どうしの親和力を酵母ツーハイブリッド法においてガラクトシダーゼの活性として評価したところJamaica対立遺伝子を含む組み合わせでは,日本晴対立遺伝子同士の組み合わせと比較して親和力が3分の2程度であった.HWC1のJamaica対立遺伝子による35Sプロモーター発現抑制効果は日本晴対立遺伝子に比べ低く,親和力の低下はHWC1タンパク質の機能に負の影響を与えていると推察され,HWC1タンパク質の遺伝子発現抑制機能低下が雑種弱勢の誘因となっていると推定される.
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