研究課題/領域番号 |
24580008
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
田浦 太志 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (00301341)
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キーワード | 生合成 / モノテルペン / ゼラニウム / old yellow enzyme |
研究概要 |
ローズゼラニウムに多量含まれるモノテルペン成分のcitronellolは、geraniolから二重結合の還元により生成すると考えられてきたが、詳細な解析は行われていない。本年度は二重結合還元酵素の候補としてshort-chainおよびmedium-chainタイプの還元酵素を想定し、合計5種類の遺伝子をクローン化して大腸菌で組み換え酵素の発現を行った。しかしながら酵素アッセイの結果、いずれもcitronellolが生成する還元反応を触媒しないことが確認され、仮説の見直しが必要となった。近年、酵母や異種植物を用いた検討から、フラビン酵素の一種であるold yellow enzyme(OYE)のモノテルペン代謝への関与を示唆する研究例がいくつか報告されている。またgeraniolからcitronellolに至る経路として、(1)geraniolは直接citronellolに還元される、という従来の説の他に、(2)本経路はcitralとcitronellalを経由し、OYEはcitralからcitronellalへの還元を触媒する、という二つの説が存在する。そこでローズゼラニウムにおいてもOYEのホモログがモノテルペン代謝に関与する可能性を考え、ESTデータベースのスクリーニングを基にOYEホモログのクローニングを行い、371アミノ酸からなるタンパク(OYE-1)をコードする遺伝子を得た。OYE-1を大腸菌で発現し、geraniolおよびcitralを基質としてアッセイを行った結果、geraniol→citronellolの反応は観察されなかったものの、OYE-1はcitral→citronellalの二重結合還元反応を触媒することが判明した。OYE-1が真にモノテルペン代謝に関与するかについて、基質特異性及び発現パターンなどを基に検証するため、現在さらなる解析を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では当初、geraniolを直接citronellolへと還元する二重結合還元酵素の存在を想定し、ミントなど異種植物のモノテルペン代謝経路に見られるようなshort-chainあるいはmedium-chainタイプの還元酵素である可能性を考えて研究を行ってきた。しかしながら、geraniolからcitronellolを生成する還元酵素遺伝子を得るには至らず、仮説の再検討が必要となった。当初の研究目的において、本年度は還元酵素の構造機能研究を完了し、プロモーター解析など代謝工学に向けた検討を行う予定であったため、研究の進捗は遅れていると判断している。その一方で、OYE-1の遺伝子をクローン化し、本酵素がcitralからcitronellalへの還元反応を触媒することを確認したことは、本植物におけるモノテルペン代謝にOYEが関与し、また代謝経路中間体としてcitralおよびcitronellalが存在する可能性を示唆するものとして重要な知見であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Geraniolを直接citronellolへと還元する遺伝子が得られなかったこと、及び、citralからcitronellalへの還元反応を触媒するOYE-1の存在を確認したことから、ローズゼラニウムにおけるモノテルペン代謝は従来の推定と異なり、geraniol→citral→citronellal→citronellolの3ステップを経て進行する可能性が考えられる。OYE-1に関しては、これがモノテルペン代謝に関与することを明確にするため、基質特異性及び発現パターンなどを詳細に検討する。また、これ以外の、geraniol→citralおよびcitronellal→citronellolの酸化還元反応を触媒する酵素遺伝子に関しても平成26年度に明確にする計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は研究計画の若干の見直しを行い、モノテルペン代謝酵素遺伝子の再度のスクリーニングを検討し、OYE-1と称する新規酵素遺伝子を見いだし、組み換え酵素の発現システムを確立することに成功した。遺伝子のスクリーニング、クローン化及び発現等の実験は当研究室で既に確立した手法を用いたため、予想外に支出を抑制できたことが次年度使用額が生じた大きな理由であると考えている。 平成26年度はOYE-1のキャラクタリゼーションに加え、モノテルペン代謝経路の完全解明及び応用に向けた諸検討を行う必要がある。また、成果発表にかかる旅費や印刷費の使用が予想されるため、次年度使用額と平成26年度請求の研究費を合わせて使用する必要があると考えている。
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