研究課題
イネ日本晴系統で確立したDDM1遺伝子ノックダウン系統を数世代に亘って自殖させ、ゲノムワイドな低メチル化状態を安定に維持する系統を確立した。この系統を用いて次世代シーケンサーによるInDel解析を行い、DaiZ10と呼ばれるhAT型トランスポゾンの脱離を検出した。DaiZ10はイネの形質転換法で用いるカルス形成の過程で活性化されていることが示された。また、植物体(幼苗)の一過的な熱ショックでもDaiZ10の弱い活性化が検出された。
2: おおむね順調に進展している
DaiZ10は、5’端に近い転移酵素遺伝子プロモーター領域が野生型で高度にメチル化されているが、低メチル化系統では、この領域のほとんどすべてのメチル化が消失していることが明らかになった。一方で、3‘端の転移酵素遺伝子下流領域では、低メチル化系統においてもメチル化の低下は見られず、これらの結果から(1)DaiZ10の活性化状態と転移酵素遺伝子プロモーター領域のメチル化状態に相関があること、(2)DDM1はDaiZ10の特定領域のメチル化維持に関与していることが明らかになった。イネの挿入変異の原因因子として広く利用されているレトロトランスポゾンTos17は長期間のカルス培養で活性化されることが知られているが、DaiZ10の活性化はカルス誘導後1週目で観察され、Tos17よりもカルス誘導過程の早い時期で活性化されていることが示された。また、カルスから再分化させた植物体においてもDaiZ10は活性が状態を維持していることが確認された。DaiZ10と99%以上の相同性を示すDaiZ型トランスポゾンは日本晴ゲノム中の4か所に存在するが、(1)低メチル化系統ではこれらの全てが活性化されていること、(2)野生型カルスではこれらのうち少なくとも2か所で活性化が見られることが明らかになった。カサラスのゲノムにも日本晴におけるDaiZ10に相当するトランスポゾンが存在し、やはりカルス化で活性化されることが明らかになった。
カルス誘導過程で活性化されるDaiZ10については、カルス誘導から植物体再分化の期間を通してのメチル化状態の活性化の経時変化を解析する。DaiZ10の活性化を誘導する環境ストレス条件の更なる検討を進めるとともに、エピゲノム維持に関わるDDM1以外の因子の機能欠損系統におけるDaiZ10の活性化の有無を解析する。カサラスにおいてもカルス化によるDaiZ10様トランスポゾンの活性化が見られたことから、他のインディカ系統におけるDaiZ10様トランスポゾンの存在と活性化条件を解析し、インディカ系統におけるトランスポゾン挿入変異系統群確立への利用の可能性を見積もる。
投稿していた論文が受理されず、再投稿が次年度に持ち越されたため。当初計画に従い、消耗品購入、学会発表・情報収集のための国内外出張等に研究費を使用する。
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