研究実績の概要 |
本研究は、アーバスキュラー菌根菌が共生した際のイネ科作物の生育応答に着目したものである。初年度(平成24年度)では、菌根菌が感染すれば生育が抑圧される傾向が強いオオムギやコムギにおいて、菌根菌からのリン酸吸収に主要な役割を果たすリン酸トランスポーター遺伝子を初めて同定した。また、意外なことに、生育抑圧をうけるムギ類においても、それらリン酸トランスポーター遺伝子は高レベルで発現していることを明らかにした。次年度(平成25年度)では、酵母変異株に上記ムギ類リン酸トランスポーターを発現させることにより、リン酸輸送活性の測定を試みた。しかし、いつの間にか酵母の性状が変化したらしく、活性検出には至らなかった。また、圃場におけるイネの菌根菌感染を調べたことがきっかけとなり、イネ系統によって生育応答に差があるとの予備的な結果を得た。 そこで最終年度(平成26年度)に「世界のイネコアコレクション」のうち64系統のイネ苗の生育に対する菌根菌の影響を調べたところ、あるインド型イネ系統が最も高い正の応答を示した。一方、代表的な日本型イネ系統である日本晴は菌根菌に対する生育応答をほとんど示さなかった。この違いを探るために、上記2系統の苗における無機養分含量を比較したところ、菌根菌共生によって2系統ともP, N, S, Mg含量が増加し、Fe, Cu, Zn, B, Al含量が低下した。すなわち、菌根菌に対する生育応答におけるイネの系統間差には未知の機構がはたらいていると思われ、これら2系統を用いた将来のQTL解析によってその機構が解明される可能性が出てきた(論文投稿中)。 このほか最終年度では、イネ・菌根菌共生を用いた実験により、菌根菌体内のトリグリセリド油滴生成機構に関する新知見を得た。また、菌根菌が細胞壁成分であるN-アセチルグルコサミンを再利用する機構も解明した。
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