イネ葉鞘に出穂期までに蓄積されるデンプンはイネの登熟に利用される重要な炭水化物源である。そこで本課題では、イネ葉鞘におけるデンプン分解に関わる酵素遺伝子の機能を解明するため、プラスチド局在型のβ-アミラーゼアイソフォームをコードするOsBAM2とOsBAM3の2つの遺伝子について解析を進めてきた。昨年度までに作出したOsBAM2とOsBAM3遺伝子の2つが同時に発現抑制された(ダブルノックダウン)系統の表現型を解析した結果、ダブルノックダウン系統では、出穂後の葉鞘におけるデンプン含量が野生型系統よりも著しく増加していた。しかし、この実験では、野生型系統の葉鞘におけるデンプン蓄積量が通常よりも少なかったため、再度の評価を行う必要がある。 また、葉鞘において発現が認められるOsBAM4とOsBAM5遺伝子の翻訳産物の細胞内局在性を、緑色蛍光タンパク質とのキメラタンパク質を用いて解析したところ、両遺伝子がコードするアイソフォームもまたプラスチド局在型であることが明らかになった。さらに、OsBAM5遺伝子の発現は、葉身において夜間に急激に上昇することが明らかとなり、その発現抑制系統を用いた解析から、OsBAM5遺伝子は葉身における夜間のデンプン分解に関与することが強く示唆された。 インド型多収イネ品種のタカナリは、日本晴などの通常の日本型品種と比較して、出穂後の葉鞘におけるデンプン含量の低下が急激に生じ、その現象にはα-アミラーゼをコードするRAmy2A遺伝子が関係している可能性を本課題の中で示してきた。そこで、その機能解析に必要なタカナリでのRAmy2A遺伝子発現抑制系統の作出のため、アグロバクテリウム法による効率的なタカナリの形質転換手法を検討し、その確立に成功した。その手法を用いてタカナリのRAmy2A発現抑制系統を作出し、現在はその表現型解析を進めている。
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