研究課題/領域番号 |
24580030
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
寺尾 富夫 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業総合研究センター 作物開発研究領域, 上席研究員 (80355578)
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キーワード | 高温登熟 / QTL / 玄米外観品質 / 遺伝子 / 地球温暖化 |
研究概要 |
近年、登熟時の高温により、米粒が白濁するいわゆる白未熟粒の発生により、米の品質低下が問題になっている。そこで、高温でも白未熟粒の発生が少ないインド型品種ハバタキの高温登熟耐性QTLの探索を行い、高温登熟耐性品種育成の基礎とする。 ハバタキの第3染色体にある高温登熟耐性QTLの候補領域付近をササニシキに導入したF8分離後代を栽培し、乗換え系統の探索と分離系統による高温耐性の評価を行った。その結果、マーカー125495-8近辺の狭い範囲のみをハバタキ型で持つ準同質遺伝子系統が得られた。この系統は、同領域がササニシキ型の系統に比べて、白未熟粒(乳白+基部+腹白+死米)の割合が有意に低く、また整粒割合も有意に高かった。 この領域内には6個の候補遺伝子が含まれていた。しかしこのハバタキ領域のうちの片側が欠けて、ハバタキ型領域が更に狭くなった別の系統では、白未熟粒減少の効果が見られなかった。このことから考えて、この欠けた領域に白未熟粒の発生を抑制する機能が座乗していると考えられる。しかしながら、この領域には遺伝子の構造遺伝子部分は含まれておらず、遺伝子の発現を調節する機能が座乗している可能性が高いと考えられる。したがって、ここから最も近い位置に座乗する遺伝子が原因遺伝子であり、この部分により発現が調節されている可能性が高い。以上のことから、高温登熟耐性に関与する遺伝子は、ほぼ特定できたと考えている。今後、遺伝子発現解析等により、これが本当に原因遺伝子なのか検証する必要がある。 また、同じ第3染色体の別領域に見いだされたハバタキ型で整粒割合を増やすQTLについても、準同質遺伝子系統が得られており、整粒割合を増やす効果が確認された。しかしこの領域は、まだ690kbpの長さがあり約70個程度の遺伝子が含まれているため、今後の絞り込みが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高温登熟耐性QTLに関する準同質遺伝子系統が得られ、それにより高温登熟耐性の違いが検証できた。この準同質遺伝子系統の中には、6個の候補遺伝子が含まれているが、マップベースでの解析により、そのうちの1遺伝子が原因遺伝子であることがほぼ特定できた。この遺伝子については、RNAiにより発現抑制を行って、耐性機能が失われるかどうかを調べる予定であり、現在そのベクターの構築を行っている。 また、ハバタキ型で整粒割合を増やすQTLについても、準同質遺伝子系統が得られ、それにより原因遺伝子が座乗する範囲が特定できた。これについては、遺伝子特定にはまだかなりの時間が必要だが、QTLとして特定することにより、品質向上に向けた育種に応用可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
準同質遺伝子系統に含まれる6個の候補遺伝子のアレルの違い(ハバタキ型かササニシキ型か)により、発達中の種子での発現が異なるかどうか、また高温処理を行うことによりその発現がどう変化するかを調べる。これらの遺伝子の発現様式を解析することにより、原因遺伝子の絞り込みを行う。 また、現時点でのマップベースでの解析により原因遺伝子である可能性が最も高い1遺伝子については、RNAiによる発現抑制系統を作成するために、現在そのベクターの構築を行っている。これを用いて、候補遺伝子の発現を抑制することにより、白未熟粒の発生が増加する、あるいは高温での白未熟粒発生の抑制機能が低下するようなことが起こるかどうか確認する。他の遺伝子である可能性も残っているので、これらについても順次ベクターの構築を行い、発現解析により原因遺伝子の可能性が明らかになれば導入して解析を行う。 整粒割合を高めるQTLについては、さらなる領域の絞り込みを継続する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額40,132円は、研究費を効率的に使用して発生した残額である。 次年度使用額は、次年度に請求する研究費と合わせて、研究計画遂行のために使用する。
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