研究課題/領域番号 |
24580031
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
梅本 貴之 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 北海道農業研究センター寒地作物研究領域, 主任研究員 (90370551)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | イネ / デンプン / 変異 / 糊化 / 胚乳 / コメ |
研究概要 |
a.低温糊化変異系統の新規デンプン素材としての有用性評価:アミロペクチン鎖長分布は、コシヒカリと比較して旱不知Dにおいて短鎖比率が高かったが、低温糊化変異系統は原品種の旱不知Dよりもさらにグルコース重合度8~11の短鎖比率が高かった。アミロース含有率は、変異系統が15.2%と旱不知Dより2.5ポイント低く変異による影響が見られた。また変異系統の糊化温度は64.4℃とコシヒカリ、旱不知Dよりも有意に低かった。低温糊化変異系統のコメは、アミロペクチン短鎖比率の高さとアミロース含有率の低下によって低温の調理でデンプンが糊化し、老化も遅いと考えられた。 b.原因遺伝子の特定と原因変異点に基づいた選抜DNAマーカーの作成:コメ1粒で糊化性が評価可能か、ヨウ素呈色の最大吸収波長による判定を試みた。低温糊化変異系統の最大吸収波長は旱不知Dより短く、アミロペクチン短鎖比率の高さと対応したが、アミロース含有率が低い影響もあると考えられ、遺伝解析には米粒の尿素糊化-ヨウ素呈色法を用いた。遺伝解析集団の親品種、低温糊化変異系統とコシヒカリの間で多型を示すSSRマーカー40個を用いてF2、186個体を解析した結果、糊化性を制御する新規遺伝子は第11番染色体のHvSSR11-28と11-50の間に座乗すると示唆された。 c.デンプン生合成における変異原因遺伝子の役割の解明:登熟中の胚乳における主要デンプン代謝関連酵素の活性を低温糊化変異系統と旱不知Dで比較したところ、変異による明確な影響は確認されなかった。イネ44kオリゴアレイ(アジレント)を用いた登熟初中期の胚乳で発現している遺伝子の解析から、変異系統では貯蔵タンパク質であるプロラミンおよびグルテリン遺伝子群の発現が旱不知Dより明確に低下していた。このため、変異の原因遺伝子はデンプン代謝のみならず貯蔵タンパク質にも影響を及ぼすと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
a.低温糊化変異系統の新規デンプン素材としての有用性評価:低温糊化変異系統の糊化易性の原因が、アミロペクチン短鎖比率の高さにあることが示された。また変異によってアミロース含有率の低下も確認された。これらの知見は低温糊化性を持つ実用品種を開発することで、米および米粉加工食品の粘りや柔らかさ保持性を向上させうることを示唆しており、加工利用の参考となる特徴を明らかにするとした、本年度の目標を達成したと判断する。 b.原因遺伝子の特定と原因変異点に基づいた選抜DNAマーカーの作成:用いたマーカーの数は予定より絞ったが、低温糊化変異系統が持つ2つの変異遺伝子のうち、既知のデンプン枝付け酵素I遺伝子の遺伝子型を考慮した上で糊化性の表現型を判定する方法によって、予定通り新規変異遺伝子の座乗領域を特定した。 c.デンプン生合成における変異原因遺伝子の役割の解明:デンプン代謝関連酵素の活性染色(ザイモグラム)からは、低温糊化変異系統に特異的な活性の欠損、あるいは活性バンドパターンの変化は認められなかった。一方、遺伝子の網羅的発現解析によって貯蔵タンパク質関連の複数の遺伝子発現が低下しており、変異によって影響を受ける遺伝子群に関する情報を予定通り蓄積した。
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今後の研究の推進方策 |
a.低温糊化変異系統の新規デンプン素材としての有用性評価:当初予定では米粉加工食品のモデルとしてデンプンゲルを用いた老化性テストを行うこととしているが、実用により近い団子の硬化性試験で代替することも検討する。 b.原因遺伝子の特定と原因変異点に基づいた選抜DNAマーカーの作成:現時点で新規変異遺伝子の座乗領域に、デンプン特性や貯蔵タンパク質に直接関与すると判断される遺伝子の存在は明らかとなっていない。そのため当初予定していた手法のひとつである詳細マッピングを進めると共に、低温糊化変異系統と原品種である旱不知Dのホールゲノムリシーケンシングを行い原因変異点の特定を図る。 c.デンプン生合成における変異原因遺伝子の役割の解明:当初計画にあるように、新規変異単独、デンプン枝付け酵素I欠損単独、二重変異の各ホモ個体を選抜し、それらのアミロペクチン鎖長分布、アミロース含有率等を比較解析することによって、新規変異遺伝子とデンプン枝付け酵素I遺伝子のデンプン生合成における役割とその相互関係を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費として分光光度計一式(944千円)の購入を予定していたが、同じ研究室に所属する研究員が同等の機器を入手したため購入しないこととしたのが残額が生じた主要因である。2013年度は、本研究課題で用いているイネ変異系統の変異点特定、ならびに変異点に基づいたDNAマーカー作成に力を入れる予定であり、DNAシーケンシング等の委託分析に経費がかかると予想される。発生した繰越金も含め、この解析に有効に用いることとする。
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