研究課題/領域番号 |
24580033
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
石丸 健 独立行政法人農業生物資源研究所, 植物生産生理機能研究ユニット, 研究員 (80370641)
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キーワード | イネ / 収量性 / QTL / ソース |
研究概要 |
RG5はカサラスに由来し、出穂前の植物体における蓄積量を1.5倍に高める。主に蓄積を担う葉鞘一枚の中には、機能分化が存在し、上部はソースとして働き、下部はシンクとして蓄積を担っている。RG5を有すコシヒカリ染色体置換系統(SLRG5)において、葉鞘の蓄積量は2倍に増加していた。昨年度までの解析により、RG5による葉鞘の蓄積量の増加は、機能分化の変化による蓄積(シンク)部位の増加によるのではなく、下部の面積当たりの蓄積増に起因することを明らかにしている。本年度は、RG5による蓄積能向上の更なる要因の解明、領域の矮小化及び蓄積量増加に関わる染色体領域の特定を行った。 SLRG5とコントロールの葉鞘において、転流及びデンプン合成に関わる遺伝子の発現等に違いは見られなかった。一方で、SLRG5の葉鞘に接続する葉身の特性では、光合成能を維持したまま葉面積が一割以上大きくなっていた。これらの結果から、RG5による蓄積能の向上は、蓄積側の葉鞘ではなく供給側である葉身の能力が高いことによりもたらされることが分かった。 RG5の候補領域の両端にDNAマーカーを設定し、4,000個体のBC1F2の中から領域内で組換えが生じた5系統を選抜した。この5系統のジェノタイピングと葉身の長さによるフェノタイピングの結果から、RG5の存在領域を本研究開始時の2Mbから703.2kbに狭めた。 カサラス及びNona Bokra型アレルにおいて葉面積を増加させる染色体領域(CRATs)をそれぞれ4、8個見出した。特に、第7染色体短腕部に見出されたNona Bokra由来のCRAT (LA7-nona) は、止葉に加え止葉下第1、第2葉の葉面積をコシヒカリに比べ54%増加させた。一方で、Rubisco含量及び光合成速度には影響を及ぼさず、RG5と同様の作用を有すと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
出穂前の炭水化物蓄積量を増やすことが、イネのソース能ひいては収量性改良に向けた主要なターゲットであるとされてきた。しかしながらその重要性が古くから認識されているにも関わらず、蓄積能を決定する遺伝生理学的な要因並びに改良に向けた具体的な方策は明らかではなかった。本研究におけるRG5の解析を通じ、下位葉身の葉面積の拡大によりソース能を高めることが、炭水化物の出穂前蓄積能を向上させる要因であること、言い換えれば下位葉身の葉面積の拡大が蓄積能の改良に向けたターゲットの一つであることを明らかにできた。また、RG5原因遺伝子の染色体上の存在領域の矮小化も予定通り進んでいる。更にLA7-nona等のRG5と同様の作用を有す染色体領域も見いだすことができたことから、達成度を判断した。
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今後の研究の推進方策 |
RG5による蓄積能の向上は、葉鞘に繋がる葉身のソース能が高いことによりもたらされることを明らかにした。また、RG5の存在領域(703.2kb)の領域内で、組換えが生じた系統のジェノタイピングとフェノタイピングを行い、RG5の存在領域を矮小化する。また、近年の温暖化に伴い高温登熟障害が発生し、深刻な問題になっている。高温下においてシンクとソース間のバランスが壊れることが、高温登熟障害を引き起こす要因の一つとされている。このことから、ソース能を高めるRG5により高温登熟障害が抑えられる可能性が示唆された。この点を明らかにするために、RG5を有すコシヒカリ染色体置換系統に加え、コシヒカリとカサラス間で見出した高温登熟障害耐性QTLを有す系統間を用いて、炭水化物の転流特性と高温登熟障害耐性との関係を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度までの研究により、RG5の存在領域を予定より狭い703.2kbに狭めることができた。そのためタイピングに使用する試薬の購入が抑えられ、次年度使用額が生じた。 RG5の存在領域を狭め候補遺伝子を絞り込むために、5,000を超える系統のジェノタイピングを行い、領域内で組換えを生じた系統を選抜する。さらに選抜した系統の詳細なジェノタイピングと下部の葉身面積の測定によるフェノタイピングの結果から、RG5の存在領域を矮小化する。ジェノタイピングは、大量サンプルの解析にそくしたSNPアレイを用いて行う。本年度生じた次年度使用額はSNPの判別に必要な試薬およびPCRプレート等の購入に使用する。加えて大量サンプルのジェノタイピング並びにフェノタイピングを迅速に行うために、研究補助の雇用にしようする。
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