RG5はカサラス由来の炭水化物転流を増加させ登熟歩合を高める遺伝子座である。大気二酸化炭素濃度の上昇は、穀類に含まれる硫黄やタンパク質等の必須元素の減少を引き起こし、わずか50年後には数十億人規模で健康被害が発生すると予測されている。しかしながら元素の減少を引き起こす生理的機構ならびに具体的な対応策は明らかではなかった。本年度は、RG5の存在領域の矮小化並びに高二酸化炭素濃度条件下での元素減少に対する抑制効果を検討した。 1.RG5領域の矮小化 RG5の存在領域を約250kbに絞り込んだ。この領域には発現制御に関わる遺伝子(Nhd5)を含む15個の遺伝子が存在していた。Nhd5はタンデムに同じ遺伝子配列が3個並んでいたが、コシヒカリではその内1個の遺伝子が壊れていた。組換え体を用いた証明が必要であるが、文献情報等からこの遺伝子がRG5の原因遺伝子であり、コシヒカリで完全タンパク質が減少することがアレルを決定する要因であると推測している。 2.高二酸化炭素濃度下における必須元素含量低下への対応 元素蓄積量低下の要因を明らかにするために、各元素の転流・蓄積特性を解析した。その結果、少なくともイネでは他の器官からの再転流量の減少が、玄米の必須元素含量を低下させる要因と考えられた。植物において蓄積した元素は、炭水化物と共に別な器官に運ばれる。そのためRG5を導入することで、高二酸化炭素濃度条件下における蓄積量低下を抑えることが可能ではないかと考えられた。この仮説に基づき、準同質遺伝子系統(NIL)を用いて実証を試みた。その結果、コントロールの玄米に含まれる窒素と硫黄は減少していたがNILでは有意な減少が見られなかった。これらの結果から、再転流量の減少が、高二酸化炭素濃度条件下における元素含量を低下させる要因であること、並びに再転流量を改変することで低下を抑えることが可能であることが明らかになった。
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