研究課題
北海道における里山林放置リスクの一つである、ヒグマ(Ursus arctos)の農作物利用(獣害)に着目した。農地における人とヒグマの軋轢に関する研究の多くは、農地の周辺環境のみに着目してきた。これらの研究は被害対策を講じるうえで極めて重要である一方、どのような特徴を持つ個体がより農作物を利用するかは未解明であった。そこで、本研究ではヒグマの骨コラーゲンを対象とした安定同位体比分析手法とGISによる空間解析により、過去に捕獲されたヒグマの個体の特徴と捕獲地点周辺の環境要因がヒグマの農作物利用に与える影響について解析した。渡島半島を対象地域とした。渡島半島地域では、毎年平均して100頭前後のヒグマが有害駆除捕獲されており、ヒグマによる農業被害額は500~700万円で推移している。道総研・環境科学研究センターが保管している2000から2012年までに捕獲された4歳以上のヒグマの大腿骨試料、132個体(メス65個体、オス67個体)を選定し、安定同位体比値を測定した。また、本研究では被害作目のうち最も被害額が大きいコーン利用に着目した。メス及びオスのコーン利用割合を目的変数とした一般化線形モデル(GLM)を用いて解析を行った。誤差分布をbeta分布、リンク関数をlogitとした。説明変数はヒグマの年齢、大腿骨長という個体情報と、捕獲地点から発生させたバッファー内の人口、森林面積、路網延長、及び接エッジ長という環境変量とした。モデル選択の結果、メスでは有効なモデルが構築できなかった。雄については、大腿骨長とバッファー半径が2.5km以内の人口、及び接エッジ長からなるベストモデルが選択された。大腿骨長及び接エッジ長はコーン利用割合に正に影響し、人口が負に影響した。個体情報及び捕獲地点周辺の環境情報の両方で、オスのコーン利用が説明できることがわかった。
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