本研究は森林植生による世界文化遺産の評価および保全の手法を構築することを目標とし、ひとと森林とのかかわりから文化遺産を再評価し、価値となる植物種とその分布を明らかにすること、文化遺産における森林の現状を植生、管理の面から把握し問題点を明らかにすること、価値と現状を踏まえて森林の目標像を設定し、保全管理計画を提案すること、を目的とした。 「石見銀山遺跡とその文化的景観」では特徴的な樹種としては栗、梅、ナラ類、ツバキ、松、竹が抽出された。明治以降に増加したのは竹林で、重要な樹木であったマツはほぼ消滅した。また、梅は戦後も利用された一方、銀の精錬に必要だった栗は減少した。炭の材料となったツバキは現存するがナラ類はナラ枯れで減少した。近世から近代の森林が現在の景観とは大きく異なっていたことが明らかになった。今後は観光動線を考慮した植生の管理と復元を計画する必要がある。 「白川郷」では森林管理に向けたゾーニングのためにGISを用いた図を作成した。近世は山を畑などに利用していた。近世から近代にかけて山には草地が点在し、秣や薪などの採取に利用していた。こうした利用の結果、柴山は低木などのブッシュ(薮)で、木山は広葉樹の疎林であったと考えられる。昭和32年(1957)および現在(平成22年(2010年)以降)の航空写真から読み取り、GISを用いて作成したところ、「白川郷」(荻町)周辺の森林において集落周辺の草地、広葉樹林が人工林に変化したことが明らかになった。また、白川村の森林は昭和20年代以降に最も変化したと考えられる。変化の要因は家畜の飼料、肥料、燃料の利用がなくなったこと、茅場が減少したこと、杉の人工林が増加したことである。現在は利用する必要がなったこと、また世界遺産の景観を維持することなどを考慮して、目標を定めてゾーニングすることが望ましい。
|