福島県須賀川市と鏡石町にまたがる、日本初の西欧式官営牧場を前身とする岩瀬牧場について、その近代化産業遺産としての価値を評価し、それを地域再生に活用するための課題を明らかにして、デザイン提案する方法論を具体的に展開することを目的とした。そのため、岩瀬牧場および周辺関連地域に関する歴史的資料の調査、現地環境資源の実測調査、現況の問題点把握、改善方策の検討を行い、地元関連組織と協力して、地域再生活動を展開した。 研究全体の成果として、1.牧場所蔵文献資料のアーカイブ化 2.歴史的トラクター・古農具類の調査 3.樹木群の実測調査と樹勢診断 4.歴史的建造物の実測調査 5.インフォメーションデザイン(WEB・展示・パンフレットなど)の検討などを行って 6.牧場景観と運営に関する改善プランを作成し 7.それらを関連組織との連携で実行するような誘導支援を行った。この結果、岩瀬牧場は牧畜農業の近代化産業遺産として貴重な存在であり、明治期の東北開拓の実情を伝える資源を多く有していることが分かった。しかしながら、現状の経営においてそれら資源を有効に活用しているとは言いがたく、歴史的牧場としての景観としてそぐわない部分が散見された。これらを改善することによって、岩瀬牧場は広域的な歴史・観光資源として評価される余地が大きいと判断した。以上について「環境デザイン研究No.5 福島県岩瀬牧場の近代化産業遺産としての価値と保全に関する研究」として最終的にとりまとめた。 これらの研究成果は、学術的には日本造園学会ベストペーパー賞およびプレゼンテーション奨励賞として評価され、地域活動としては「牧場の朝顕彰会」の設立として反映し地元新聞で報道され、文化財行政的には、「茅葺きトラクター倉庫」および「フォードソンF型トラクター」が鏡石町において文化財登録されることが確実になるなど、幅広い波及効果を示した。
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