本研究は、西九州に自生しているダンギクの系統地理学的な構造を明らかにすると同時に、園芸的・造園的利用を目的とした際の系統地理学的研究を背景とした判断ツールをも開発した。また、他の群落の影響を受けていない保存性の高い群落と、そうではない群落を地形的な観点と表現型から判別し、ダンギクの基準群落、準基準群落を選定し、その自生場所を明確にした。 改良CTAB法で抽出したDNAのダイレクトシークエンスにより、Genbank登録配列およびユニバーサルプライマーを用いて増幅のみられた葉緑体DNAの11領域のうち、6領域において塩基の挿入、欠失による集団間変異を確認した。そのうち3領域において塩基置換がみられ、特に3’rps16-5’trnK領域では、長崎県対馬、長崎市周辺、五島列島、および鹿児島県甑島列島の各地域間で数塩基の変異を確認した。特に対馬では同一地域においても南北で塩基置換が示され、北部の1地点において南部ハプロタイプを示したことから、植栽等の人為的な影響が明らかとなった。また、核DNAのITS領域のダイレクトシークエンスの結果、葉緑体DNAとは異なるハプロタイプのパターンを示した。特に甑島列島のハプロタイプは他地域と大きく異なることから、分岐年代の違いが示唆された。 葉緑体DNAにおいて人為的影響の示された1地点では、南部よりも北部のハプロタイプに近いことから、近隣集団の花粉の侵入が疑われた。長崎市周辺および平戸島の集団間では異なるハプロタイプが示され、平戸島の南西部と五島列島で同一のハプロタイプを確認した。このことから、単純な集団間の距離でハプロタイプ分布が構成されているとは限らず、安易な隣接集団の植栽の危険性を明らかにした。さらに、園芸品種として流通している系統の自生地を特定することが可能となった。
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