研究概要 |
まず,青紫色花系統各個体の主要花色素を調査した結果,ほとんどの個体の主要アントシアニンは,マルビジン3,5ジグルコシド(Mv3,5dG)であった.このMv3,5dGは,多くの紫色花シクラメンの主要アントシアニンであり,これらの品種とMv3,5dGを主要花色素とする青紫色花系統各個体との間では,花色に明確な違いが認められたにもかかわらず,花弁中のアントシアニン組成はほぼ同様であった.また,青紫色花系統各個体では,開花後に花弁中のアントシアニンが大きく減少し,明らかな花弁の退色が認められたが,紫色花品種では,アントシアニンの減少は小さく花色にも大きな変化は認められなかった. 次に,既存の赤,白,ピンクおよび紫色花品種と青紫色花系統各個体の花弁のホモジネートのpHを調査したところ,前者ではpH4前後またはそれ以下であったのに対し,後者ではpH6前後であった.そこで,紫色花品種‘KNパープル’と青紫色花系統の花色素ならびにMv3,5dG標品をpH4または6の酢酸バッファーに溶解し,その吸光度を分光光度計で調査した結果,いずれにおいてもpH6のバッファーで抽出した場合に極大吸収波長の値が大きくなる,すなわち青みを増す傾向が認められた.これらのことから,青紫色花系統各個体の青みが強い花弁は,花弁細胞内の高いpHにより生じているものと示唆された さらに,青紫色花系統各個体の葉身のホモジネートのpHを調査した結果,既存の赤,白,ピンクおよび紫色花品種の葉身のホモジネートのpHより有意に大きな値となり,開花前に花弁細胞のpHが高い個体を選抜できる可能性が示唆された.なお,青紫色花系統と野生種との交雑を試みた結果,青紫色花系統では1株あたりの開花数が他品種より少ないため,すでに報告されている種間雑種作出法の逆交雑,すなわち野生種を種子親とした種間交雑を検討する必要があると思われた.
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