本年度の研究により,青紫色花シクラメン個体を種子親としたF 1個体が得られ,これらの個体は,逆交雑で得られた個体と同様の形質を示したことから,シクラメンの青紫色花形質は,交雑の正逆に関係なく遺伝する核遺伝形質であるものと推測された.また,F2個体においては,花弁のpHが園芸品種とほぼ同等の個体と青紫色花系統のように高い値を示す個体とに分かれ,後者は白色花を除いて花弁が青色化した.両者の比は高いpHが劣性と仮定した場合の理論値に5%レベルでは必ずしも適合しなかったが,幼苗時の葉身のpHの調査から,シクラメンにおける花弁細胞内の高いpHにより花弁が青色化する形質は劣性形質であることが示唆された. 本年度の成果を合わせて,本研究により花弁内の高いpHがシクラメンの花弁の青色化を引き起こし,それにより青紫色花系統が成立していることが明らかになった.また,青紫色花系統では,その高いpHにより開花後に花弁中のアントシアニンが減少し,開花後に退色が起きることも示された.なお,青紫色花系統では花弁でだけでなく葉身でもpHが高くなっていたことから,この細胞内のpHが高くなる形質は多面発現しており,開花前に花弁細胞のpHが高い個体を選抜できる可能性が示された. シクラメン花弁の青色花形質の遺伝様式について,花弁の青色化を引き起こす細胞内のpHが高くなる形質は,1つの劣性遺伝子に支配されるものと示唆された.また,細胞内のpHが高くなる形質により,花弁の小輪化や株の生存率の低下等が引き起こされることも示された.さらに,青紫色花系統を交雑に用いてもF1では青紫色花個体は期待できないうえ,青紫色花系統や野生種を種子親とした種間交雑における雑種作出が困難であったことから,ゲノムが異なる種間交雑による青色花種間雑種の作出は容易ではないものと考えられた.
|