研究課題/領域番号 |
24580049
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
上町 達也 滋賀県立大学, 環境科学部, 助教 (40243076)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 耐干性 / 耐強光性 / アジサイ / 系統解析 / ITS配列 / 遺伝資源 |
研究概要 |
実験1.日本に自生するガクアジサイ,エゾアジサイ,ヤマアジサイの系統解析:フォッサマグナ東端に位置する頸城山塊(妙高連峰)を中心に,ヤマアジサイの自生群落をサンプリングし,花色などの形態的特徴と核DNAのITS配列を解析した結果,頸城山塊が日本海側のエゾアジサイ分布の西限であることが示唆された. 実験2.アジサイ園芸品種の育種母本となった系統の特定:ヨーロッパに導入されてアジサイ園芸品種の育種母本となったとされているいくつかの系統について,ITS配列を解析した.ガクアジサイ系統とエゾアジサイ・ヤマアジサイ系統間のITS配列の塩基置換部位を認識する制限酵素を用いて解析した結果,アジサイ園芸品種の作出にはエゾアジサイまたはヤマアジサイが関与していることが示唆された. 実験3.未利用遺伝資源である伊豆諸島のガクアジサイ群落の調査とサンプリング:伊豆諸島の八丈島,青ヶ島,伊豆大島において,自生ガクアジサイ群落の調査と,耐候性育種素材の発掘のためのサンプリングを行った.いずれの島においても,ガクアジサイは島全体に広く分布していた.いくつかの自生地から枝を採取し,滋賀県立大学の雨よけハウスで挿し木し,挿し木株の生育を調査した.これらの挿し木株は,冬期においても冬芽を形成せず,休眠しないことが明らかとなった. 実験4.耐候性系統のスクリーニング:本年度は,予備実験として,滋賀県立大学で維持されているガクアジサイ野生系統とアジサイ園芸品種をいくつか用いて,灌水量について処理区を設け,ポット栽培による耐干性のスクリーニング条件の検討を行った.この予備実験において,強い耐干性を示す系統が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度の交付申請書に記した計画は,①日本に自生するガクアジサイ,エゾアジサイ,ヤマアジサイの系統解析と②耐候性育種素材の発掘・育成である. ①日本に自生するガクアジサイ,エゾアジサイ,ヤマアジサイの系統解析:北陸・フォッサマグナ周辺に自生するエゾアジサイとヤマジサイと伊豆諸島に自生するガクアジサを調査した.北陸地方のヤマアジサイ・エゾアジサイ系統に関して花色並びにITS配列を解析した結果,エゾアジサイの分布域の西限が頸城山塊であることが特定できた.なお,この結果を更に裏付けるため,25年度には,24年度に作成した植物標本をもとに,詳細な形態的特徴の調査を行う.ガクアジサイに関しても計画通り,伊豆諸島のうち,人が住む最南端の島(青ヶ島と八丈島)で,サンプリングを行うことができた.これらの島に自生するガクアジサイでは,温帯の気候帯に移しても,休眠せずに常緑となる系統が多いことを明らかにした. ②耐候性育種素材の発掘・育成 計画通りに伊豆諸島のガクアジサイをサンプリングすることができた.耐候性スクリーニング試験の実験条件の確立のうち,耐干性に関しては予備実験を行うことができたが,耐強光性に関しては,7,8月に実験材料であるガクアジサイ野生系統の挿し木苗の生育が間に合わなかったため,次年度に持ち越しとなった. ③アジサイ園芸品種の育種母本となった系統の特定:平成25年度から着手する予定であったが,一部の品種について,24年度に前倒しで行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
①日本に自生するガクアジサイ,エゾアジサイ,ヤマアジサイの系統解析:24年度に頸城山塊周辺に自生するヤマアジサイ・エゾアジサイについて作成した標本をもとに,形態学的特徴の解析を行う.またガクアジサイとヤマアジサイの分布域が重なる伊豆半島において,自生株のシュートをサンプリングし,標本を作製するとともに,ITS配列やmatK配列を解析する.また伊豆半島において,自生地の環境をもとに耐候性系統の探索を行う. ②耐候性育種素材の発掘・育成:24年度に伊豆諸島で採取した系統や24年度の予備実験で強い耐干性を示した系統などのガクアジサイ野生系統を中心に,耐干性並びに耐強光性のスクリーニングを行う.またこれまでの研究において,一部の系統でレトロトランスポゾンの転移による突然変異が非常に生じやすい状態にある可能性が示唆されている.突然変異による耐候性系統の作出を目的に,このレトロトランスポゾン転移系統について,レトロトランスポゾンの転移頻度を調査する. ③アジサイ園芸品種の育種母本となった系統の特定:エゾアジサイやヤマアジサイが現品種群の育成にどの程度関与したかを特定する.アジサイ園芸品種の育種母本と古品種について,ITS配列を中心に解析する.
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次年度の研究費の使用計画 |
①日本に自生するガクアジサイ,エゾアジサイ,ヤマアジサイの系統解析:伊豆半島のガクアジサイ調査のための旅費,DNA配列解析の試薬と実験器具,標本の作成・整理・保管作業のための雇用 ②耐候性育種素材のスクリーニングのための栽培試験:土壌水分・光量子束密度・温度などの環境要素の計測・記録機器,培養土・ポットなどの栽培資材,水ポテンシャル・切片作成・抗酸化物質の定量など植物体の解析に必要な実験器具や試薬,転写物の解析の受託 ③アジサイ園芸品種の育種母本となった系統の特定:DNA配列解析の試薬と実験器具,DNA配列の解析の受託 ④全般:学会発表のための旅費,論文投稿料
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