研究課題/領域番号 |
24580049
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
上町 達也 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (40243076)
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キーワード | アジサイ / 乾燥耐性 / 強光耐性 / 系統解析 / ITS配列 / 遺伝資源 / トランスクリプトーム解析 |
研究概要 |
実験1.日本に自生するアジサイ類の系統解析:伊豆半島においてガクアジサイとヤマアジサイ(アマギアマチャ)の自生群落を10地点調査した.いくつかの群落において,ガクアジサイとヤマアジサイの中間的な形態的特徴をもつ個体が認められた.これらの群落では,核DNAのITS配列に関してガクアジサイ型とヤマアジサイ型のゲノム内多型を示す個体が認められ,伊豆半島においてガクアジサイとヤマアジサイの自然交雑が生じている可能性が示唆された. 実験2.アジサイ園芸品種の育種母本となった系統の特定:日本の4品種、日本や中国から西欧に渡り園芸品種の育種母本となった7品種、交雑により誕生した13品種を供試し、ITS配列に基づいた系統解析を行った結果、アジサイ園芸品種はガクアジサイを基本に作出されているが,ヤマアジサイやエゾアジサイが品種の成立に関与しているものが高い割合で存在することが明らかとなった. 実験3.アジサイにおける潜在的な変異発生能の調査:自然突然変異を利用した耐候性品種の作出のための基礎的知見を得るために,アジサイの花芽から得たトランスクリプトーム解析データと既に公開されている葉のRNA-seqデータをもとに作成した29,270種類のESTについて,転移因子関連のアミノ酸配列を検索したところ,約4.2%の配列が該当し,アジサイが高い自然突然変異発生能を有することが示唆された. 実験4.栽培試験による強光耐性系統のスクリーニング:ガクアジサイ野生系統の中には,飽和光合成速度が比較的高い系統や,無遮光条件においても葉に障害の生じにくい,高い強光耐性をもつ系統が存在することが明らかとなった. 実験5.栽培試験による乾燥耐性系統のスクリーニング:灌水制限下で栽培試験を行った結果,日本の寺社等で広く栽植されているヒメアジサイよりも,ガクアジサイ野生系統の方が断水後の萎れが遅れる傾向が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書に記した本年度の計画は,①日本に自生するガクアジサイ,エゾアジサイ,ヤマアジサイの系統解析,②アジサイ園芸品種の育種母本となった系統の特定,③未利用遺伝資源である伊豆諸島のガクアジサイ群落の調査とサンプリング,④耐候性系統のスクリーニングである,これらの達成度は以下の通りである.また当初の計画に加えて,アジサイ園芸品種についてトランスクリプトーム解析も行い,アジサイが潜在的に自然突然変異を発生する能力が高いことが示唆された. ①日本に自生するガクアジサイ,エゾアジサイ,ヤマアジサイの系統解析:本年度はガクアジサイとヤマアジサイの分布域が重なる伊豆諸島において調査を行った.ヤマアジサイとガクアジサイの中間的な形態的特徴を持つ個体を含む野生群落がいくつか存在することが明らかとなった.これまでの研究において,日本固有種のガクアジサイはヤマアジサイから進化したことが示唆されているが,ITS配列と形態的特徴の解析結果から,今回見つかった中間的な形態の個体は,ガクアジサイの祖先系統ではなく,自然交雑に由来することが示唆された. ②アジサイ園芸品種の育種母本となった系統の特定:アジサイ園芸品種において,ヤマアジサイやエゾアジサイが品種の成立に関与したものが多く含まれることが示唆された. ③未利用遺伝資源である伊豆諸島のガクアジサイ群落の調査とサンプリング:本年度は,伊豆半島で調査を行った.日当たりが良い海岸近くで,荒天時には海水をかぶる可能性のある岩のくぼみに蓄積された少量の土壌に生育している個体が見つかった.このような個体は,強い乾燥耐性や強光耐性を有する可能性があるものと期待される. ④耐候性系統のスクリーニング:無遮光下や灌水制限下での栽培試験を行い,強い強光耐性を有する系統がいくつか認められるとともに,ガクアジサイ野生系統はヒメアジサイより強い乾燥耐性をもつことが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
①日本に自生するガクアジサイ,エゾアジサイ,ヤマアジサイの系統解析:25年度はガクアジサイとヤマアジサイの分布域が重なる伊豆半島において,ガクアジサイとヤマアジサイの中間的な形態的特徴を有する個体が存在する可能性のある分布域を中心に調査を行った.本年度は伊豆半島において調査範囲をもう少し広げて,ガクアジサイが自生する海岸沿いと,ヤマアジサイ(アマギアマチャ)が自生する内陸部を中心に調査を行う.また伊豆半島において,自生地の環境をもとに耐候性系統の探索を行う. ②耐候性育種素材の発掘・育成:25年度にいくつかの強光耐性をもつ系統が見つかっているが,本年度も更に供試系統を増やして,強光耐性系統を探索する.また乾燥耐性に関しては,25年度とは異なる灌水制限方法で栽培試験を行い,昨年度の方法では顕在化できなかった乾燥耐性をもつ系統を探索する. ③潜在的に自然突然変異を発生する能力の高い系統の探索 25年度にトランスクリプトーム解析を行い,アジサイの1品種において突然変異発生能が高いことが示唆された.本年度は,さらに多くの系統について解析を行い,アジサイ類の自然突然変異発生の潜在能力を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では3年間にわたって一定のPCRの試薬が必要となる.本年度,残り予算が4873円となり,PCR試薬を購入するには足りないので,翌年度に持ち越すこととした. PCR試薬の購入費の一部にあてる予定である.
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