実験1.日本に自生するアジサイ類の系統解析:フローサイトメーターによる核DNA含量の比較を行った結果,ガクアジサイ,エゾアジサイの核DNA含量はヤマアジサイに比べて有意に大きかった.核DNAのITS配列と形態的特徴を調査した今年度と昨年度の結果から,伊豆半島の北東部ではガクアジサイとアマギアマチャの自然交雑だけでなく,富士山自生個体と同系統のヤマアジサイとガクアジサイとの交雑も生じている可能性が示唆された. 実験2.潜在的な変異発生能の調査:自然突然変異を利用した耐候性品種の作出のための基礎的知見を得るために,アジサイで活性化しているレトロトランスポゾン配列をトランスクリプトーム解析により探索した.品種Blue Skyの花芽の転写物から441種類のレトロトランスポゾン様isotig配列が得られ,転写しているレトロトランスポゾン配列は大きく5つの系統群に分別されることが示唆された.またRT-PCR解析の結果,これらのいくつかの配列はガクアジサイやヤマアジサイ野生種において転写していることが示唆された. 実験3.栽培試験による強光耐性系統のスクリーニング:野生系統を用いた圃場栽培試験の結果,強光条件により誘導される2種類の障害のうち,霧・帯状障害についてはガクアジサイのいくつかの系統で強い耐性を有することが示唆された.また,斑点状障害に関しても,ガクアジサイ及びヤマアジサイのいくつかの系統で耐性が見られた.斑点状障害の発症には炭疽病や褐斑病などの病害と光条件との相互作用の関与も考えられた. 実験4.栽培試験による乾燥耐性系統のスクリーニング:昨年度と灌水制限の方法を変えて栽培試験を行った結果,ガクアジサイ野生種のうち八丈島や青ヶ島のいくつかの系統が乾燥耐性を有することが示唆された.これらの耐性系統では,乾燥ストレス条件において下位の葉を落葉させ,株全体の枯死を防ぐ傾向が認められた.
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