研究課題
基盤研究(C)
カーネーションでは、雌ずいで生成するエチレンが花の老化の「スターターエチレン」として働く。本研究はアブシシン酸(ABA)が雌ずいのエチレン生成誘導因子であることを実証する。平成24年度は、(1)前年度までのABA生合成関連遺伝子に加えて、ABAの作用(受容とシグナル伝達、作用)に関わる遺伝子を取得し構造を解析した。(2)短寿命性を示すカーネーション品種 ‘ライトピンクバーバラ(LPB)’と‘エクセリア(Exc)’、および長寿命品種‘ミラクルルージュ(MR)’を用いて、開花と老化時の雌ずいおよび花弁におけるABA含量の変動をLC/MS/MS法によって精密分析した。(3)上記3品種の各花組織における、ABA生合成関連遺伝子とABA作用系遺伝子の発現を解析した。この結果、カーネーションのABA合成ではカロチノイド開裂酵素遺伝子DcNCED1が、ABA作用ではABA受容体遺伝子DcPYR1が鍵遺伝子として機能することを明らかにした。さらに、‘LPB’では開花期の雌ずいでABAが蓄積するものの老化期にDcPYR1が発現するまでABAの作用が起きないこと、‘Exc’では老化期にDcNCED1が発現してABAが合成されることによりABAの作用が現れること、‘MR’では開花期以降DcNCED1もDcPYR1も発現せずABAの作用が起きないことを明らかにした。以上から、ABAのエチレン生成誘導因子としての役割を明らかにした。さらに、カーネーションの花の短・長寿命性を、花弁のクチクラワックス超長鎖脂肪酸生合成と関連させて調査した。関連酵素遺伝子群をクローニングして開花・老化時の発現を解析し、花の長寿命性が花弁のクチクラ層の形成とは関連しないことを明らかにした。これにより、雌ずいのエチレン生成に起因するエチレンによる老化の重要性を示した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では当初、(1)ABA の生合成と不活性化に関与する遺伝子群の取得と発現解析,および (2) ABAの受容体とシグナル伝達に関与する遺伝子群の取得と発現解析,(3)老化遅延変異体(長寿命品種 ‘ミラクルルージュ’)の解析とABA合成阻害剤の作用の解析,(4)通常の老化を示すカーネーション品種,長寿命品種,ABA生合成阻害剤処理した花のABA含量の変動を明らかにする、ことを計画した。平成23までに(1)の遺伝子解析を終了していた。平成24年以降、(2)および(3),(4)に焦点をあてて研究を行うことを計画した。平成24年度の研究によって、(2)を終了し、(3)と(4)の半分を達成した。この結果、カーネーション雌ずいにおけるエチレン生成の誘導因子が、アブシシン酸(ABA)であることを、ABA含量の変動調査、ABA生合成と作用関連遺伝子群の発現解析を寿命が異なる品種を用いて解析して明らかにした。特に、寿命性の異なる品種群を用いた解析は、当初の予想を超えて目覚ましい成果を上げた。成果を園芸学会誌(JJSHS)に投稿して採択され,現在印刷中である(平成25年5月11日現在)。上記の研究に用いた寿命性の異なるカーネーション品種を用いて、花弁のクチクラワックス超長鎖脂肪酸生合成に関与する遺伝子群をクローニングするとともに、その発現解析を行った。成果を、園芸学会誌(JJSHS)にすでに発表することができた。論文の審査の過程で、審査委員から、「花き園芸学の分野で、花の開花と関連させてクチクラワックス超長鎖脂肪酸生合成を取り上げた研究」は独創的であると評価された。
当初の計画のうち未着手である、ABAおよびABA合成阻害剤、ABA作用阻害剤の作用を検討することにより、雌ずいのエチレン生成の誘導因子がABAであることをさらに補強するデータを得る。平成24年度の成果から、これらの薬剤処理を行うカーネーション品種として ‘エクセリア’が適切であることが判明したので、この材料を中心にして実験を行う。材料の入手については、花き研究所との共同研究契約を結び必要量を確保できる手配が終わっている。さらに、薬剤についても、ABA、ABA合成阻害剤、ABA作用阻害剤を入手済みである。ただし、現在、ABA作用阻害剤として確定された薬剤はないが、私のこれまでの研究によってDPSSがその薬剤である可能性が高いことが分かっている。また、平成24年度の研究の副産物として、キシログルカンオリゴ糖とパラチノースのカーネーション品種における開花促進作用を発見した。それらの作用を解析して、花きの開花制御への実用化研究の糸口を得ることも行う。
平成24年度の研究の実施において、実質的な役割を担った大学院生(DC)が平成25年6月末までに博士の学位を取得見込みである。その後のポジションが確定するまで、博士研究員(本学では特任助教になる)として雇用して研究を継続する予定である。そのため、研究費の30%(約50万円)を雇用経費として使用する。それ以外を、研究器材と薬品の購入費、花き研究所への往復旅費、9月の園芸学会秋季大会参加のための旅費、論文原稿の英文校閲費と投稿費に使用する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science
巻: 82 ページ: 161-169
巻: 82 ページ: 印刷中