研究課題
ABA関連の研究が順調に進んでいるので、開花と老化の機構の解析と応用に研究を展開した。前年度に見いだしたキシログルカンオリゴ糖(XGO)とパラチノース(Pal)のカーネーションの開花促進作用と2,4-ピリジンジカルボン酸(PDCA)の老化抑制作用について、生理作用の特性の解析と分子作用機構の解析を行った。(1)タマリンドシードガム由来のキシログルカン(XG)から、XG7:XG8:XG9=1:4:5の構成比のXGOを調製した。1%のXGO溶液を投与して‘Pure Red’および‘Light Pink Barbara (LPB)’の開花を誘導することができた。開花誘導は‘Pure Red’では処理翌日に認められた。花弁細胞の細胞壁の伸展時におこるキシログルカン糖鎖転移酵素(XTE)によるXG鎖のつなぎ替えに、XGOが作用することを推定した。(2)Palは、スクロースのアナログであり植物細胞では代謝されない二糖と見なされてきた。‘Lillian’に1% Palを投与すると、開花が促進されることを見いだした。カーネーション花弁のα-グルコシダーゼによってPalが加水分解されグルコースとフルクトースが生成し開花のエネルギー源となるため、開花が促進されると推定した。(3)PDCAの、カーネーション切り花の老化抑制効果を詳細に解析した。大腸菌で発現させて得たカーネーションACC酸化酵素(DcACO1)を用いて、本酵素の補助因子であるアスコルビン酸とPDCAが拮抗して酵素活性を阻害すること確認した。また、2 mM PDCAがスプレーカーネーション‘LPB’の観賞期間を対照に較べて2.4倍延長した。これらの結果は、PDCA を新規切り花阻害剤として開発する将来の研究方向を示した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初、本研究は、カーネーション雌ずいにおけるエチレン生成の誘導因子が、アブシシン酸(ABA)であることを明らかにすることを研究目的にした。初年度の研究によって、ABA含量の変動調査、ABA生合成と作用関連遺伝子群の発現解析を寿命が異なる3品種を用いて解析して、ABAの中心的な役割を明かにした。特に、花持ち期間の異なる品種群を用いた解析は、当初の予想を超えて目覚ましい成果を上げた。成果を園芸学会誌に発表した(JJSHS 82(3):242-254,2013)。カーネーション品種‘エクセリア’を用いてABA、ABA合成阻害剤、ABA作用阻害剤の作用を検討して、ABAの役割に関して傍証を得ることを、2013年度に計画した。しかし、(1)本研究の材料が花き研究所で栽培されていて京都府大にはないこと、(2)実験を担当する予定であった大学院生の病気になり、花き研究所への出張実験ができなかったことのため、実験の実施が先送りされている。しかし、この実験の結果、あればより良いが初期の研究目的のためには、必須ではない。他方で、本年度はカーネーションを花き材料にして、開花と老化を制御する薬剤の探索を行い、キシログルカンオリゴ糖やパラチノース、2,4-ピリジンジカルボン酸、2-アミノオキシイソ酪酸(AOIB)などを発見し、その生理作用の調査と作用機構の解析を行った。AOIBについては、研究実績では触れなかったが、新規切り花鮮度保持剤として特許出願し,成果をまとめて論文投稿中である。これら全体の研究の進展と展開の現状から、研究の達成度は、「(1)当初の計画以上に進展している」と考えている。
今年度に明らかにした2,4-ピリジンジカルボン酸(PDCA)の生理作用と作用の分子機構をより詳しく解析する。PDCAは、2-オキソグルタル酸を補因子として要求する酸化酵素に対して、拮抗阻害剤として作用することが知られている。このような酵素に、ジベレリン(GA)生合成経路の3β-水酸化酵素(活性型GAを作る)と代謝経路の2β-水酸化酵素(GAを不活性化する)が含まれている。スイセン、ユリ、アルストロメリアなどの単子葉植物園芸花きでは、切り花の葉の黄化によって観賞価値を失う。GAは葉の黄化を抑制する。PDCAがチューリップの花茎伸長効果を持つことを既に見ており、見かけ上のGA活性を有するのではないかと考えている。これらの知見をさらに発展させて、PDCAがエチレン生成阻害作用と見かけのGA活性を併せ持つ薬剤として、新規の切り花鮮度保持薬剤として実用できることを、実験的に証明する。ABA、ABA合成阻害剤、ABA作用阻害剤を用いてABAの役割の傍証を得る実験は、担当する院生の病気の回復を待って再開する。回復が思わしくない場合は、この実験については、本研究に於いて必須ではないので、中止せざるを得ないと考えている
カーネーション品種‘エクセリア’を用いてABA、ABA合成阻害剤、ABA作用阻害剤の作用を検討して、ABAの役割に関して傍証を得ることを計画したが、実験を担当する予定であった大学院生の病気のため、実験を実施できなかったためである。しかし、この実験の結果はあればより良いが、なくても初期の研究目的には必須ではないので,さらなる対処はしなかった。特に、2年度で明らかになった2.4-ピリジンジカルボン酸の開花促進と老化阻害作用の解析に集中して実験を行うための研究器材と薬品の購入費に当てる。また、9月の園芸学会秋季大会での成果発表のための旅費、論文原稿の英文校閲と投稿費に使用する。
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Journal of the Japanese Society for Horticultural Science
巻: 83 ページ: 72-80
10.2503/jjshs1.CH-082
巻: 82 ページ: 179-189
10.2503/jjshs1.82.179
巻: 82 ページ: 242-254
10.2503/jjshs1.82.242
巻: 82 ページ: 270-276
10.2503/jjshs1.82.270
巻: 82 ページ: 337-343
10.2503/jjshs1.82.337