本研究の目的は、光刺激と花弁成長との関係を明らかにし、つぼみからの開花現象を解明することにある。 本年度は、LED照明を用いて赤色光や青色光を切りバラに照射し、光刺激と開花リズムとの関係を詳細に調査した。具体的には、青色光は45 µmol/m2/s程度までは光強度を増加させると開花速度も上昇したが、赤色光は25 µmol/m2/s程度で開花速度は最大に達し、それ以上光強度を増加させても開花速度は変化しなかった。これはバラ花弁における光受容の感度が赤色光と青色光とでは異なっていることを示唆している。さらに、赤色光55 µmol/m2/sに青色光20µmol/m2/sを混ぜて照射すると、赤色光単独より開花速度は促進したことから、それぞれのシグナルは独立して花弁成長に作用していることが示された。 次に、明期開始直後の開花進行中の花弁および暗期開始直前の開花停止時の花弁を用いて、開花関連タンパク質の発現解析をウエスタンブロット法により行った。その結果、細胞壁軟化に関連する「エンド型キシログルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH)」は開花ステージが進むにつれて発現量は上昇するが、日周期を詳しく見ると開花停止時のほうが開花進行中の花弁より発現量は増加していた。また、細胞内への水の流入に関連する「アクアポリン」については、つぼみから開花が進行するにつれて徐々に発現量は低下していた。さらにアクアポリンのゲート開閉に関連するといわれているリン酸化の程度に関しては、開花進行時にリン酸化状態が維持されており、開花停止時は脱リン酸化が起こっていることが示唆された。これらの結果より、前日の開花停止時にXTHの働きにより細胞壁が軟化し、翌日の明期開始直前からアクアポリンのリン酸化により水の流入が起こることで、バラの開花が進行することが推察された。
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